ユーザーの声を収集することの大切さに気づき、実行に移したメーカーの1つがソニーだ。同社が、ユーザー情報に真摯に耳を傾けることの重要性を再認識したのは、同社製リチウム(Li)イオン2次電池を採用したノートパソコンの発火事故。同社は2006年9月、全世界での自主交換プログラムの実施に踏み切った*1。「電池の事故以来、経営トップはもちろん、当該部署だけでなく全社的に情報を共有する仕組みが必要だと考えた」(同社品質センター品質室室長の北野博基氏)。

*1 電池セルの一部に微細な金属粒子が入った場合、電池セル内の他部品と接触し、電池セル内部で短絡(ショート)する可能性があった。ソニーは「ノートパソコンのシステム構成の違いの影響を受ける」という判断から、当初は米Dell社や米Apple社による電池パックの回収にのみ協力していたが、やがて取引先(パソコンメーカー)とユーザーの不安を解消するため全面的な自主交換プログラムの実施に踏み切った。

 その仕組みの概要はこうだ(図3)。まず,ユーザーから同社製品の事故情報がコールセンターやソニー社員に寄せられると、その担当者は決められたフォーマットに情報を記入し、製品安全・品質担当役員に必ず電子メールで伝達する*2。「それまでもユーザーや取引先からの情報は集めていたが、製品ごとや事業部ごとの対応に留まっていた」(同氏)。ユーザーから寄せられる情報とをすべて製品安全・品質担当役員に流し、そこで一元的に重大性を判断するのだ。

*2 ここで扱っている情報は、火災や発火、破裂、溶け/変形、発煙、発熱、感電、落下、異臭など、ユーザーの身体に何らかの影響が及ぶもの。

図3●ソニーが採用する顧客の声を拾うサイクル<br>製品の不具合に関するユーザーからの声はすべて、製品安全・品質担当役員に上げられる。月に平均 50件程度の不具合情報が寄せられるという。決して少なくない量だが、フォーマットに整理して伝えることで必要な情報を短時間で得られる。社長と副社長に伝達される際には、重要性のランク付けがされているため、情報把握にかかる時間はさらに短縮される。
図3●ソニーが採用する顧客の声を拾うサイクル
製品の不具合に関するユーザーからの声はすべて、製品安全・品質担当役員に上げられる。月に平均 50件程度の不具合情報が寄せられるという。決して少なくない量だが、フォーマットに整理して伝えることで必要な情報を短時間で得られる。社長と副社長に伝達される際には、重要性のランク付けがされているため、情報把握にかかる時間はさらに短縮される。
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 こうすることで、担当者レベルで情報の流れが止まってしまうことがなくなり、多くの情報に基づく総合的な判断が可能になる。例えば、ユーザーが携帯電話機を高所から落として、変形させてしまった、という報告があったとする。担当者によっては「それはユーザーの使い方の問題」と片付けてしまうかもしれない。しかし、同じような落下による変形が複数報告されている場合、それはメーカーが注目すべき問題になる。ユーザーの使い方の変化を示しているのかもしれないし、手から滑り落ちやすいデザインなのかもしれない。すべての情報を集約し、判断することで的確な対応が可能になるのだ。