グローバル化とともに、製品の複雑化・多機能化は大きな品質リスクだ。「技術革新は、リスクの拡大も伴う。とりわけ電子化の技術レベルは飛躍的に高まっているが、品質検証(の体制や技術)がそれに追いついていない恐れがある」(文化学院理事長の戸田氏)。実際、製品が複雑で多機能になればなるほど、分業化が進んで製品の全体像を俯瞰することが困難になる。しかも製品や技術が短命化し、技術の成熟を待たずに次々と新しい技術を投入するため、検証は否が応でも不十分になりがちだ。
特に近年は、電子制御の増大がこうした製品の複雑化に拍車をかけている。今や、情報家電やクルマなど多くの製品が組み込みソフトによる電子制御を取り入れている。最新データによると2007年度には組み込み製品の開発費における制御ソフトのそれが半分近くを占めるに至った(図7)3)。
3)経済産業省、「2009年版 組込みソフトウェア産業実態調査 報告書」、2009年7月.
繰り返すが、電子制御は製品設計の自由度を高める一方で、製品をより複雑にし、全体像の俯瞰をより困難にする。結果、品質検証のハードルが上がる。そこに、短くなる開発期間、厳しさを増すコスト削減といった制約が加わるため、品質検証がおろそかになって品質トラブルが引き起こされるリスクはさらに高まるのである(図8)。
悪魔のサイクル
こうした問題を一足早く経験したのが、1990年代後半から、カラー化やネットワーク化といった多機能化と同時に低価格化も進んだ複写機のメーカーだ。カラー複写機は、B/C/M/Y(黒色/青色/赤色/黄色)の4色をずれなく重ねなければならないので、モノクロ機よりも高い精度が求められた。しかもネットワーク化によって、パソコンから複合機に印刷できるようにしたりセキュリティー対策を盛り込んだりと、開発案件は急拡大した。当時、複写機メーカーはこうしたカラー機をモノクロ機と同時並行で開発したため、開発機種の数は急増したという。実際、リコーでは、2004年の開発機種数は2000年比 1.4倍に、2008年のリーマンショック直前には同2.5~3倍に膨らんだ。こうした技術の複雑化・多機能化と開発案件の急拡大は、次のように品質の造り込みを難しくする。