(写真:林幸一郎)(右上,右下,左下)
変形するミラー・デバイス。
それをLSI上に実現しようという取り組みに着手した
米Texas Instruments Inc.のLarry J. Hornbeck。
実現すれば,プリンターやプロジェクタなどさまざまな応用先があり得る。
しかし,全く新しいデバイス開発であることから思うようには進まない。
製品化の可能性が見えないまま10年の歳月が過ぎようとしていた。
「もともと,発想そのものに無理があったのではないか…」
可動する微小ミラーを使って光の進行方向を制御するデバイス。このミラーの角度を電気的に制御して,それをプリンターに応用しようというのが,米Texas Instruments Inc.(TI社)でミラー・デバイスの研究を進めていたLarry J.Hornbeckの狙いだった。
光学技術にたけていたLarry。TI社には優秀なスタッフもそろっている。そして優れた半導体プロセス技術もある。当時としては,画期的なデバイスが誕生する…はずだった。
(写真:林 幸一郎)
しかし,事はそう易しくなかった。Larryが当時期待をかけていたカンチレバー型のミラー・デバイスは,ミラーの角度の安定性を保つのが非常に難しかったのである。
加えてさまざまな難問がわき上がる。可動するカンチレバーと支持体の連結部となるヒンジは,硬すぎて実用的でないことが分かってきた。当時求めていたのは,薄くて変形しやすいヒンジ。それでなければ,ミラーの角度を高速かつ自由に変化させることができないためだ。
Larryは新しいカンチレバーの構造を実現するために新たなプロセス技術を導入することで,従来にない薄く柔らかなヒンジを何とか実現することができた。
しかし,それが逆に,ミラーの動作を不安定なものにしてしまうという状況に陥ってしまった。
10年目の結論
「どうしたらいいんだ…。もしかして,何かとてつもない難題に対峙しているのでは…」