前回より続く
図3 物語の舞台となった三洋電機洲本事業場
洲本事業場は,三洋電機の電池事業の中心拠点である。淡路島のちょうど中央付近に位置する。ここでLiイオン2次電池の生産ラインが稼働している。幸いにして,地震による被害はほとんどなかったという。(写真=三洋電機)

 割り切れない気持ちのまま,雨堤氏は広島へ向かう。まずは淡路島からフェリーに乗って明石へ。ここで通常なら新幹線で一気に広島まで行ける。だが,大阪-姫路間はまだ新幹線が復旧していない。そこで明石から在来線で姫路まで行くことにする。電車内はごったがいしているうえ,ノロノロ運転。しかも,停車する駅ごとに数分間止まる。こんなことなら歩いた方が速いんじゃないのか。

 淡路島を出てから立ちっぱなしなので,足はもうパンパンだ。腹も減ってきた。どうしてこんなことしてまで,広島まで行かなきゃならないんだ…。

 どうにか姫路までたどり着き,新幹線に飛び乗った。かなりの時間と労力を使い,やっと広島にあるPHS電話機メーカまでたどり着く。

採用は突然に

 雨堤氏はすぐに会議室に通された。すでに相手は待っている。「しかし,いい加減疲れたな。早いところ切り上げて,さっさと帰ろう」。そう思っていると,いきなり相手が切り出した。「あのー,この前見せていただいたAl合金製の電池を,ぜひウチで開発中のPHS電話機で採用したいと思いまして」。

 「ちょ,ちょっと待ってくださいよ」。わけがわからない。この前の電池をぜひ採用したいって?いまさら何言っているんだ,まったく。この前来たときは断わったじゃないか。

 ただ今回は,前回説明に来たときとはずいぶん雰囲気が違う。PHS関連を統括する副本部長やプロジェクト・リーダなどがずらりと顔をそろえている。いったいどうしたんだ。

 「どういうことか良くわからないのですが。きちんと説明してくれませんか」。

前の話と同じじゃないか

 「実はですね」。相手は,堰を切ったように説明を始める。開発中のPHS電話機は重量100g以下にするというのが当初の計画だった注3)。そこで,まずは採用する電池や部品の仕様を決め,それから設計を詰めていった。ところが,100gを切れない。いろいろやってはみたけれど,どうしても切れない。ネックは電池だ,というのが彼らの結論だった。

注3)重量100gを切るとともに,容積を100cc以下にすることも目標だったという。