(2)源流から下流まで一貫したバリューチェーンを実現する
 20世紀後半から先進諸国で始まった“もの余り”による販売予測の不確実性から脱却するために、SCM(Supply Chain Management)が考案された。SCMは、材料を調達するサプライヤーから商品を販売する小売りまで、“物流と情流”(ものと情報の流れ)を同期させて一気通貫で管理することによって、サプライチェーン全体での在庫を極小化するとともに、販売機会を最大化するシステムである。しかし、市場調査や見積もり依頼に始まり、設計、そして生産試作・試験までに至る製品開発の流れを管理するECM(Engineering Chain management)の整備に取り組んでいる企業は少ない。ものづくりの源流であるECMの整備がなされなければ、SCMの効果も限定的である。ECMを整備してからSCMに展開して、総合的な利益を創出するバリューチェーンの構築を行う(図2)。

(3)他者に模倣されないコアコンピテンスを確立する
 歴史的に日本企業は、欧米企業の製品を見よう見まねで模倣し、次に欧米製品をリバース・エンジニアリングして設計知識を習得し、さらに日本独自の知識を上積みして成長してきた。しかしいまやアジア諸国が日本の歴史をなぞって成長しようとしている。日本が欧米の轍を踏まないようにするには、他者に容易に模倣されない独自能力(コアコンピテンス)の確立が不可欠だ。日本企業のコアコンピテンスとしての候補は、価値創出の根源であり、もともと目に見えないので模倣しにくい設計知識である。設計知識を暗黙知から形式知に置き換えて、組織的に管理・活用する社内体制を構築することが必要だ。

(4)“ハイスピードものづくり”を実現する
 すべての価値の源泉は「時間」である。原価も、基本的には人が要した時間に比例して決まる。従って開発期間(具体的には顧客の要求をあらかじめ先取っておく見込み型のメーカーでは商品企画期間と設計期間、顧客の要求を実際に聞いてから本格的な開発を始める受注型のメーカーでは見積仕様書提出期間と設計期間)や製造期間の短縮は、競争上極めて重要だ。開発期間が短ければ、見込み型メーカーでは競合他社動向を適切に反映でき、かつ世の中の最先端技術や高コストパフォーマンスの部材を織り込む機会が増えるし、受注型メーカーでは受注獲得件数が増える。開発投資も削減できるし、投資回収期間が短くなって資本回転率が向上する。さらに、設計変更も減って設計工数や量産設備手配などのやり直し(ムダ)費用を大幅に削減できる。そして、期間短縮活動で浮かせた時間は、すべてを新たな案件開発に投入するのではなく、その一部を“3T(多種/短期/短命)開発”で疲弊しつつある設計者を“遊ばせる”時間として振り向ける。そうすることで、新しい技術がどんどん生まれる好循環に転換できる。

(5)生産性向上からキャッシュフローを紡ぎ出す仕組みをつくる
 いまや、ミクロ視点の伝統的な原価管理手法は経営にとって害悪にさえなることがある。例えば、2つの部品を共通化するとコストが高い方に統合されるから、部品共通化をすべきではないという見方がある。しかし、その見方は間違いであり、部品共通化をしないと部品の種類が増えてしまって開発や製造の現場の生産性が低下し、人員、機械設備、材料、時間などの固定費(無効投資)が増えてしまう。またその分だけ補修部品を用意しておかなければならないなど、生産打ち切り後も“負の資産”を何十年も抱えることになる。TOC(Theory of Constraints、制約条件の理論)のスループット会計に見られるように、ものづくりの第一義的な目標を「原価低減」ではなく「生産性向上」に置き、それをキャッシュフローに転換するマネジメントが必要だ。