FinePix700を皮切りに勢いをつけた富士写真フイルムは,ディジカメ市場で不動の地位を築く。同社は次々と新製品を投入し,FinePixブランドはディジカメ業界のトップ・ブランドとなった。

 設計部はいまも変わらず忙しい。ディジカメの製品サイクルは極端に短く,次々と新製品を投入しなければ,トップの地位を維持できないからだ。一つの製品が完成したと思った瞬間には,すでに次の製品の開発がスタートしている。

 目が回るような忙しさのなか,危機は幾度となく訪れる。しかし,動じなくなったと岩部氏はいう。

 「あのときはほんとにひどい思いをしたからね」

 「それに比べれば,どーってことないでしょ」

 設計部のメンバが,いつも引き合いに出すのは150万画素ディジカメを開発していたときの話である。昔話が始まると,山崎氏は決まってあるモノを持ち出してくる。写真撮影に同席した彼が,頼んでサインしてもらった藤原紀香の直筆サイン入りFinePix700である。

 「あのころは写真撮影のときに設計部の人間が呼ばれたんだよな。ちゃんと動くか不安だからって。それが最近は,ちっとも声もかからなくなっちゃった。もう紀香さんにサインしてもらえるチャンスはないかもね」

 いまではサインが消えないようにと,上からテープを張ってある。

図5 藤原紀香サンで,いきます
左はFinePix700発売当時のポスター。紙面には「FinePix700は,藤原紀香サンで,いきます」の文字が躍る。右は藤原紀香の直筆サイン入りカメラ。写真撮影の時に山崎氏が書いてもらった。文字が消えないようにサインの上からテープを張ってある。(写真:新関雅士)

―― 終わり――