結局やるしかないか

 南雲氏と松尾氏,そして同じく設計部の山崎彰久氏は,すっかり頭を抱えてしまった。申告しておいた数字とあまりに隔たりが大きい。これまでなら,即,デザインの変更を申し入れていただろう。

 しかし今回は,そうもいかない。「決定したデザインに対し,こちらからはいっさい口出ししない」と,設計部のボスである岩部和記氏が約束してしまったのだから。

 「岩部さん,めちゃくちゃ頑固だからなぁ。やっぱり,説得するのは無理だろうなぁ」。いくらその問題が難問であろうとも,その解決には協力を惜しまない。しかし,こちらからできないと言い出せば,どう説明しても納得してくれない――岩部氏はいつもそうだ。設計部の全員がそれを知り尽くしている。無理を承知で岩部氏を説得するくらいなら,苦労してでもその課題を実現してしまった方がまし。行き着く結論はそこだった。

冗談のように出たアイデア

 それしかないのはわかっているが,問題解決は容易ではない。3人は,机の上に広げた図面をじっとにらみつける。

 「ねぇ南雲さん,2万2000mm2くれとはいわないから,もうちょっと基板の面積を広げて下さいよ」

 「そうだな。部品をずらすだろ,それから,あらかじめとっておいたマージンを削れば・・・,1000mm2か2000mm2程度は広げられると思うんだけど」

 「ダメダメ,そんなんじゃ。全然足りないですよ」

 「じゃあ,どこかに基板をもう1枚入れるしかないな。と言ってもなぁ」

 「うーん」

 すでに筐体の中はすし詰め状態。新たな基板を入れるスペースは見つからない。再び,図面に見入る。そして沈黙。にらみつけたからと言って,新たな空間が生まれるわけでもないのだが。

―― 次回へ続く ――