「縦型がいいな」

 川島氏は直感的にそう思った。縦型のディジカメはこれまでにない。店頭に置けば,さぞやお客さんの目を引くだろう。

 「今回失敗したら,オレの商品企画もこれが最後になる。どうせならインパクトのあるものでドーンと花火を打ち上げて,散っていきたいなぁ」

調子はどうですか

 そうは思うが,やはり証拠が欲しい。さっそく追加調査を進めることにした。

 しかし,いくら調査を重ねても「縦型に決まり」といった結果は出てこない。斬新さでは縦型が一番人気なのに変わりはない。しかし横型の人気も高いのだ。川島氏の心のなかにムクムクと不安が湧き起こってくる。

 「目新しいから縦型がいいとか言うけど,実際にユーザが買ってくれるのは使い慣れた横型かもしれないなぁ。150万画素,小型,というすごい特徴があるんだし,形で冒険することもないか。縦型にして売れなかったら,えらいことになるしな」

 だからと言って,横型に決める勇気もない。さらにいろいろな人の意見を聞いてまわる。反応は五分五分だ。困ったぞ。縦か,横か。インパクトか,安心感か。見比べれば見比べるほど,わからなくなってくる。

 こうして悩んでいるうちに時は過ぎ,1997年も4月になろうとしていた。発売まで,あと1年もない。岩部氏から頼まれた締め切りの時期はとっくに過ぎている。設計部のメンバからは,廊下ですれちがうたびに,「早くデザインを決めてくれ」とせかされる。川島氏に対するプレッシャは日に日に大きくなっていった。

―― 次回へ続く ――