一つは,インターネットに接続する際のユーザーのハードルをできるだけ下げることだ。可能であれば,無線通信機能の内蔵が望ましい。実はウォークマンでも,インターネットに接続するにはパソコンを経由する必要がある。パソコンにダウンロードしたデータをUSB経由でプレーヤーに転送するのだ。これが仮に,無線通信機能を内蔵していれば,いつでもどこからでもデータを取得することが可能になる。「脱パソコン」が,情報家電の使い勝手を一段上に引き上げるためのポイントになる。

 もう一つの要件は,「手ごろな価格のデバイス」を開発することだ。これは情報家電に限った話ではないが,インターネットに接続できるからといって高価格な設定にしたのでは,消費者に受け入れられない。ハードウエアの多くの部分を携帯電話機などと共通化しつつ,ソフトウエアは米Google Inc.が開発したプラットフォーム「Android」を活用するなどして,開発コストを抑えたい。

環境の優位性を生かせ

 こうした三つの要件を満たした情報家電の先例が米国にある。米Amazon.com,Inc.が販売する電子書籍端末「Kindleシリーズ」である。 3G(第3世代移動通信システム)の無線通信機能を内蔵し,パソコンを使わずにどこにいても書籍を購入できる。特筆すべきは,無線通信関連の“仕掛け”である。Kindleシリーズを購入したユーザーは,通信事業者と契約する必要も,月額の通信料を支払う必要もない。裏側では,Amazon.com社が通信事業者の米Sprint Nextel社に毎月通信料を支払うことで,ユーザーから見て通信の存在を“黒子”にしている。

 ユーザーが通信していることを意識せずに,インターネット上のサービスを利用できる。これこそが,情報家電の理想的な姿と言える。

 実は,日本には情報家電で世界をリードするために必要な環境がそろっている。第1に,世界でも有数の家電メーカーが集まっている点。第2に,「消費者の目が世界で最も厳しい。日本で勝つことは世界で勝つことにつながる」(ソニー 代表執行役会長兼CEOのHoward Stringer氏)。

 そして第3に,世界でも最先端の無線通信環境があることだ。具体的には,通信事業者が高速なネットワークのインフラを保有するほか,3Gでの豊かなサービスの経験がある。加えて,世界で唯一,携帯電話網の他社への開放が義務付けられており,MVNO(仮想移動体通信事業者)ビジネスを展開しやすい。「MVNOの形態で無線通信機能を内蔵した情報家電を開発するのに,日本は世界で最も有利な立場にある」(日本通信 代表取締役社長の三田聖二氏)。

 こうした世界をリードする環境を活用して情報家電を開発し,書籍配信,ゲーム,AR(augmented reality,拡張現実感),SNS(social networking service)などインターネット上の多様なサービスを組み合わせる。そこに,日本の家電が再び世界を引っ張る将来像が見える。

―― 次回へ続く(1/19公開予定) ――