ヒットの原動力となったのは,ニコニコ動画――ニワンゴが運営する動画共有サイトである。YouTubeの動画にコメントを付ける機能を付加するサイトとして,2006年12月にスタートしたニコニコ動画は,2007年3月に自前で動画サーバーを運営する独立したサイトとして再出発した。2007年5月時点で既に,登録者数が100万人を超え,1日当たりのアクセス数が3800万PV(page view)を超える巨大サイトに育っていた。

 アクセス数の増加に従って,ユーザーが自ら「歌ってみた」「演奏してみた」といった作品や,編集などに工夫を凝らした作品の投稿が増えていた。初音ミク登場前夜は単なる動画の共有から,ユーザーが創作した作品を共有する場としての色が徐々に強まっていたころだった。

 2007年8月31日の初音ミク発売前には既に,クリプトン社が同社のWebサイトで公開した初音ミクのデモソングを利用した作品がニコニコ動画に投稿されていた。さらに発売からわずか4日後の9月4日には,デフォルメされた「初音ミク」がネギを振る動画と組み合わせた「VOCALOID2 初音ミクに『Ievan Polkka』を歌わせてみた」が投稿される。この動画のヒットで,ニコニコ動画における初音ミク人気は不動のものとなる。みずほ情報総研の調べによると,初音ミク関連の投稿数は2007年9月中旬には1日100件を超えた。以降「祭り」は続き,1日当たり40~100本の動画が投稿される勢いが2008年1月末まで衰えなかった。

ニコニコ動画に投稿された初音ミク関連の作品数の変化。週ごとの登録数と累計数を示した。「ニコチャート」というニコニコ動画のまとめサイトで「初音ミク」のタグにヒットしたものを計算している。(図:みずほ情報総研の資料を基に本誌が作成)
ニコニコ動画に投稿された初音ミク関連の作品数の変化。週ごとの登録数と累計数を示した。「ニコチャート」というニコニコ動画のまとめサイトで「初音ミク」のタグにヒットしたものを計算している。(図:みずほ情報総研の資料を基に本誌が作成)
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初音ミクを使った人気作品「【初音ミク】みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」。初音ミク関連作品としてJASRACに初めて登録された。

 作品の中には,累計10万アクセス以上を誇る人気作が数々と生まれた。こうした作品の先駆けになったのが,初音ミクのためにユーザーがオリジナルで作詞・作曲した「【初音ミク】みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」である。2007年9月20日に投稿されたこの曲は,今では「着メロ」をはじめ,カラオケの楽曲としても提供されるほどの人気となっている。