多くの女性が使う化粧品。テレビで繰り返し流されるCMを見ていると,化粧品を使えばこの世の女性はみんな美白の肌になってキレイになる…はずだ。ところが,そうならない人もいるし,なる人もいるし,そもそも使わなくていいくらいの人もいる。これ以上書くといろいろ問題になりそうなのでやめておくが,果たして化粧品には一体どのくらいの効果があるのだろうか。誰もハッキリ言わないし,目の前の彼女であれ妻であれ,まして職場の女性に聞こうものなら,それだけで「○○ハラ」になること請け合いだ。

 食品であれば,それこそ内容物をいかに情報開示するかが問われている時代に,ただただ「キレイになる」「美白の肌になる」とうたわれると,開発の鉄人的にはどうしてそうなるのか,とっても知りたくなってしまう。

 そんな素朴な疑問に,真正面から答えてくれた化粧品メーカーがある。一度は倒産したが,従業員がEBO(Employee Buy-Out,従業員による企業の買収)で再建した,ハイム化粧品(本社千葉県松戸市)である。小さい会社だが,ユーザーにすべての化粧品の成分を開示している太っ腹メーカーだ。過去も未来も素顔をそのまま見せる“すっぴん”状態の情報開示である。

 情報だけがすっぴんなのではない。例えば製造工場は,いつでも誰でも,希望すれば見学することができる(図1)。何しろ,見てもらうことを前提に設計されたというから,ハードもすっぴんだ。

 余計なことかもしれないが,一般にすっぴんでもキレイだと思われる人は,顔のつくりがどうの肌の色がどうのではなく,内面からのキレイ度が高いのではないだろうか。

図1 ハイム化粧品の本社工場
いつでも誰でも中に入れる,見学コースがある。

同族経営で倒産

 前身の会社は,創業が1961年。良い品をより安くという社是を掲げ,主に地域生協に販路を伸ばしていった中小メーカーだ。手ごろな値段と,一流ブランドメーカーに負けない品質で売り上げを伸ばし,一時は年間38億円もの売り上げを記録したこともあったそうだ。ところが,2007年に倒産。いわゆる同族経営の弊害がモロに出てしまったらしい。

 同族経営でもうまくいっている企業は多い。しかし倒産してしまうと,その後はほとんどが悲惨な状態になっているようだ。同族故の骨肉の争いは多くの場合,誰が味方で誰が敵かと従業員を分裂させてしまい,肝心のものづくりができなくなる。再建などできる状況ではないのだ。筆者も以前,何回かそのような状況で倒産してしまった企業を見たことがある。同族の経営者は自分が被害者だと主張し,わずかに残された会社の資産を奪い合うが,何より大切にしなければならない従業員は蚊帳の外。何も知らされず何も配分されないまま,会社は終わってしまうのである。

 同族経営の問題点は,ズバリ,情報開示がなされていないという一点に尽きる。同族だから余計にお金の問題はクリアにしなければならないのに,「灰皿の灰までおれのもの」と言ってはばからない同族経営者もいるくらい公私の境目が見えなくなる。そして,お金の流れも公私混同し,いつしか経営の実態も見えなくなってしまうのだ。

 良いときは従業員も含めて全員の手柄,そして悪いときは経営陣の責任。そんな,単純かつ明瞭な経営者の位置付けが,同族経営陣の意識にあることは少ない。

7つの約束

 倒産してしまったハイム化粧品だが,そこで立ち上がったのは従業員たちだった。

 ピーク時には,年間38億円もの商品を買ってくださったお客様がいる。それが,彼らの再建への原動力だった。そう話してくれた同社社長の羽田博さんも,それまでは開発者,つまり従業員だったのである。皆に推されたから社長を引き受けたのですと,笑う羽田社長だが,つぶれた会社を立て直すには相当の覚悟が必要だったに違いない。しかし羽田社長は,簡単なことをちゃんとやるだけとばかりに,飄々と話してくれた。

 新生・ハイム化粧品は,倒産に至るまで残った従業員全員がその一部始終を見ていて,その教訓を今の社是に,見事に生かしている。それが「7つの約束」である。社是というよりも,ビジネスモデルを明確にしたという方が正確かもしれない。その7つの約束を,以下に紹介しよう。

(1)成分公開
 安全と安心のために,全商品の全成分とその割合,配合目的を表示
(2)情報公開
 製造年月を表示
(3)こだわり処方
 基礎化粧品は合成着色料を無添加
(4)天然原料
 天然由来成分の効果を生かす処方を研究
(5)設備管理
 逆浸透膜とイオン交換純水装置で処理を施した水を使用
(6)適正価格
 無駄なコストを省き,価格に反映
(7)製販一体
 自社で研究開発から販売までを行う,一貫した製品作り

 中でも(1)の成分公開は,多くの化粧品メーカーがやりたがらないことではなかろうか。ノウハウといってしまえば何か格好は良いが,実はユーザーには言えないものを使っているのではないかといった潜在的な不信感というか,不安が常に付きまとうのが今までの化粧品の印象だ。いくらCMでイメージキャラクターが笑顔を振りまいても,その(大げさにいえば)疑念は払拭できるものではない。

 そんな中,ハイム化粧品は成分の割合を含め,すべてを開示しているから驚きだ。例えば図2は,子ども用日焼け止め乳液のパッケージ裏面に印刷されている,成分表である。

図2 子ども用日焼け止め乳液の成分表
何を使用しているのか,割合もすべて表示している。もちろん他の製品も同様。

 恥ずかしい話だが,筆者が最初にこれを見たときは「えっ,何で」というのが正直な気持ちだった。だって,そうではないか。いわば手の内を全部見せてしまうなんて,せっかく苦労してちゃんとした製品を作っているのに,その作り方を他社に教えているようなものだ。しかし筆者は,その下衆の勘繰りをすぐに反省した。

 ユーザーから見れば,何がどうしてどのくらい入っているか,それが何よりも優先される大切なことなのだから。

日焼けのメカニズム