上勝町が示す日本の将来

 戦後,我が国のものづくりは欧米の先進国を目指し,ひたすらまっしぐらに追い付き追い越せ路線を走ってきた。そのかいあって先頭に立つと,今度は合理化や省力化によって追い付かれないように全力疾走し続けた。そこでは力のない者は切り捨てられる。高齢者がただ歳を取ったからという理由だけで引退させられてしまうように。

 そんな我が国のものづくりの将来について,「若者がいないから労働力が足りなくなる」と憂える評論家諸氏がおられるが,彼らの目にはこの上勝町の成功はどう映るのだろうか。もちろん異論はあろうが,筆者は,案外この国の将来の在り方を暗示しているのかもしれないと思っている。

 上勝町の成功の要因は,ITを駆使した情報システムを構築したことと,高齢者に無理なく働いてもらう仕掛けを作ったことの2点だ。つまものというニーズが小さいとの指摘もあろう。しかし,それを日本人の感性と価値観というニーズに置き換えれば無尽蔵である。

 あらためて言うが,大量生産方式で造る製品や商品には,何ら競争力のあるビジネスモデルはない。なぜなら,そこには特別の感性や価値観が存在しないからだ。BRICs(ブラジル,ロシア,インド,中国)をはじめ経済成長の著しい国々では,まだまだものが不足しているのに対し,我が国では十分に足りている。料理のつまものは,食べないことが当たり前。こうした日本人だけが評価し受け入れる感性や価値観にこそ,ものづくりとしての競争力が生まれる余地があるのだ。我が国のものづくりの将来に関し多くの人が悲観的になっているが,そこをきちんと見極めてツボを押さえられたらまだまだと,筆者は逆に楽観的に見ているのである。

 「世界中探したって,こんな楽しい仕事はないでよ」。筆者が訪れた葉っぱビジネスの作業場で,齢83のおばあちゃんがもうこれ以上シワができないという満面の笑顔で語ってくれた。この言葉を聞いて,筆者もメチャクチャうれしくなってしまった。これこそ,あるべき姿ではないだろうか,と(図6)。

 上勝町は人口2050人(男960人,女1090人),世帯数845戸で,高齢化率は48%と,991人が65歳以上のお年寄りの町だ。しかし驚くべきことに,寝た切りのお年寄りはたった2人しかいない。それどころか,年収1000万円を超えるお年寄りもいて,孫にマンションを買ってあげたという話も聞こえてくる。葉っぱビジネスの経済的パフォーマンスの高さに,あらためてビジネスモデルとしての筋の良さを感じる。

 たまたま前号の2007年9月号の本コラムで,地域の活性化について触れたが,今回の上勝町は一過性の単なる成功事例ではない。そこには,成功の本質がギュッと詰まっている。

図6 本当に幸せそうな笑顔のおばあちゃん
素敵な笑顔と「世界中探したって,こんな楽しい仕事はないでよ」という言葉が印象的だった。何だか,こっちも幸せになる。