葉っぱを年間数億円売っている町があると聞いて行ってみた。美しい棚田が広がる徳島県は上勝町。林業とミカン栽培に支えられてきたこの町では今,料理に添える「つまもの」向け葉っぱビジネスが最大の産業に育っている。その主な担い手は94歳のおばあちゃんを筆頭に,実に平均70歳代のお年寄りたち。これだけでも驚きなのに,ビジネス成功の秘訣がITの導入というから二度ビックリだ。年金受給者が納税者になったこの町は,これからの高齢化社会のお手本になろう。

早い者勝ちだけどフェア

 料理に添えられているもみじやハランなど,いわゆるつまものは主役ではないものの,とりわけ日本料理にとってはなくてはならない存在である。

図1 アユの焼き物とつまもの
添えられているのは,赤柿葉,モミジ,栗の葉,いが栗,青イチョウ葉,赤南天,松葉。つまものが主役と見まがうほど。(提供:立木写真舘)

 外国人には,出された料理に添えられた葉っぱを見て「これは食べられるのか」と聞く人が多い。外国人にしてみたら,皿の上に食べられないものを添えること自体,不思議なことかもしれない。けれど,日本人にとってはこれが当たり前。四季折々の彩りに満ちた葉っぱが,料理を見事に引き立ててくれる。案外,つまものがあるからこそ日本料理が成立する,といったら大げさにすぎるだろうか(図1)。

 誰かが言った。「つまものは心のぜいたくである」と。それだけつまものの存在は大きく,こうした価値観を持つ日本人故,葉っぱビジネスが成り立つのだ。日本型ニーズに直結した,素晴らしいビジネスモデルといえよう。

 かかる葉っぱビジネスの顧客はプロの料理人。特に高級料亭では,欠品など決して許されない。こうした厳しい顧客相手に,平均70歳代の生産者がどのように供給責任を果たしているのか,私の一番の疑問はそこだった。

 これに答えてくれたのが,この事業の中核を担う「いろどり」*という第三セクターの若手担当者。初めはファクスだったそうな。

図2 手書きのファクスで一斉に発注
葉っぱビジネスの生産者は,そろえられる品をエントリーする。

 いろどりが,料理店などに対し注文の基になる商品情報を流したり需要予測や市場分析データを提供したりしながら,注文を取る。これを,上勝町の農協組合員の希望者約140戸に配置した防災無線ファクス送信システムを利用し,農協から組合員である生産者に一斉に発注するのだ(図2)。と,その日のうちに必要な葉っぱを必要なだけ集められる人が,即エントリーする。

 このシステムはいわば早い者勝ちだが,実のところ生産者には集められる葉っぱの種類などに得手不得手があって,一概にレスポンスの早さだけで受注者が決まるものではない。誰でも自分のペースでエントリーできるフェアな仕組みなのだ。朝まだ暗いうちから首を長くしてファクスを待ちわびる人,いつもより早起きして発注の傾向を予測しあらかじめ荷造りを済ませている人,本来の時期より早く出荷するために葉っぱ専用のビニールハウスを造っちゃった人などなど,生産者は各者各様,このビジネスを楽しんでいる。

パソコンを使いこなすお年寄り