一方で操作の選択肢が多いと,使い方が分からないときに探索する範囲が広くなる。基本的にタッチパネルの中で操作が完結するため画面の中だけを探せばいいiPhoneと比べると,タッチパネルとハードキーの両方を探索する必要があるAndroidケータイの方がユーザーの負荷は高い。iPhone 3GSの評価では,モニタが操作に戸惑うのは最初の入り口に気づかない場合がほとんどで,一度入り口が分かってしまえばその後の操作は問題なく実行できることが多かった。これに対してAndroidケータイの場合,各キーの役割や操作ルールの学習と他への応用に少々時間がかかると思われる。

【同じツールを異なる操作で呼び出す】Androidの標準ブラウザ(上の二つの画面)では,画面表示を拡大縮小するツール(ズームコントロール)を呼び出すために,画面を指でドラッグ(一方向にスライド)する。地図のアプリケーション・ソフトウエアで同様なツールを呼び出すには,画面をタップする(たたく)必要がある。Androidマーケットでダウンロードできるブラウザ(下の画面)には,全く異なるUIで画面を拡大縮小するものがある。
同じツールを異なる操作で呼び出す
Androidの標準ブラウザ(上の二つの画面)では,画面表示を拡大縮小するツール(ズームコントロール)を呼び出すために,画面を指でドラッグ(一方向にスライド)する。地図のアプリケーション・ソフトウエアで同様なツールを呼び出すには,画面をタップする(たたく)必要がある。Androidマーケットでダウンロードできるブラウザ(下の画面)には,全く異なるUIで画面を拡大縮小するものがある。
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 アプリケーション開発の自由度も,Androidの方が高い。開発者は,基本的な操作まである程度カスタマイズできる。これも諸刃の剣である。例えば,画面の拡大縮小ツール(ズームコントロール)を呼び出す操作は,標準地図アプリならタップ(画面をたたく),標準Webブラウザなら1方向に指をスライドさせる。後者はリンクの誤タップを防ぐ役割があるとはいえ,見た目と挙動が同じコントロールツールを呼び出すための操作が,標準アプリ間で異なることは,ユーザーの学習を遅らせるものと思われる。さらに,Androidマーケットにはこれとは全く異なるUIを採用したブラウザもある。このような多様さも,ユーザーにとっては負荷につながる。iPhoneアプリがピンチイン/アウト(二本の指を閉じたり広げたりする)で大体の拡大縮小をこなせるのとは対照的である。

 iPhone 3GSの評価で印象的だったのは,モニタがタスクに失敗した後にも購入意欲が落ちないことだった。これは,先述したように,入り口さえ分かってしまえば大丈夫,という感覚を与えるからではないか。実際,何となく操作できてしまう,という印象を持つモニタが多かった。これは,Apple社が用意したiPhoneヒューマンインタフェースガイドラインが細かいところまで整備されており,個々のアプリケーションが雰囲気まで似るほど統一されていることが一つの大きな要因とみられる。ユーザーは基本操作を一度学習すれば,初めてのアプリケーションでも応用が利くのである。

 これに対してAndroidでは,現在もUIガイドラインが成長している最中である。そのためか,ユーザー自身が頭を使って考えないと操作を類推できないことが少なくない。「なんとなくできてしまう」iPhoneに対して,Androidケータイを使っていると「理屈っぽい」という印象を受ける。これは,ガイドラインが成熟するに従って変わっていくのかもしれないが,自由さをその特徴の一つとするAndroidの場合,このまま進んでいく可能性もある。

 今後,Androidは携帯電話に限らず様々な機器に搭載されていくものと予想されるが,メーカーのみならずアプリやサービスの開発者の方々には,Androidの発展のためにも「ユーザー視点」を意識した開発を心がけていただきたいと思う。

―― 終わり ――