日立製作所の超薄型液晶テレビ「Wooo UTシリーズ」を分解し,その詳細を解説した2008年1月の日経エレクトロニクスの記事を再掲載するシリーズの第4回目。今回は,電源基板を覆っていた紙状の絶縁シートについて解説する。分解を行った技術者たちが「見たことがない」と言うそのシートとは…。(Tech-On!)


 Wooo UTシリーズの電源基板は,紙状のシートで覆われている(図A-1(a))。技術者たちが「見たことがない」と口をそろえるこのシートは,米DuPont社が手掛ける「NOMEX」というアラミド樹脂を利用した紙であるとみられる(図A-1(b))。

図A-1 絶縁性の紙で電源基板を覆う
図A-1 絶縁性の紙で電源基板を覆う
電源基板は,紙状の物体で覆われている(a)。DuPont社が手掛けるアラミド樹脂を利用した紙とみられる(b)。アラミド・ポリマと呼ばれるこの物体は,軽量かつ絶縁性,難燃性を備える。電源基板の絶縁対策として採用した可能性が高い。(a)電源基板を覆う紙状の物体(b)DuPont社のアラミド樹脂

 NOMEXはアラミド樹脂の一つであるpoly-m-phenylen isophtalamideを紙状にしたもの。製造工程では,まずアラミド樹脂の重合体から短繊維と合成パルプを取り出す。これらを水中で紙状に形成した後,高温・高圧下で一定の厚さに圧延する。

 このシートは軽量であると同時に,高い耐熱性や難燃性を備える。UL規格では+220℃での連続使用を認められており,難燃性の基準としては樹脂系では最高基準であるUL94V-0を認定されている。絶縁性も備えており,Wooo UTシリーズに使われているとみられる厚さ約0.4mm品の表面抵抗率は7×1016Ω/□と高い。従来は,産業機器などの絶縁シートとして採用されることが多い。日立製作所はこのシートを民生機器に転用したのかもしれない。

†UL規格=米国の非営利団体Underwriters Laboratories Inc.が実施する評価テストに基づく規格。電子部品などの安全性や耐久性の評価基準として用いられている。

 Wooo UTシリーズの筐体裏側は樹脂性であるため,電源基板に絶縁シートは不要のはずである。薄型化により電源基板と筐体の間に空間がほとんどないために,後から追加した可能性もある。なお,このシートの材質や用途について,日立製作所は「回答できない」としている。