経路補正のフィルタを用いることで,
何とか駐車誤差の問題を解決したトヨタ自動車の開発チーム。
ところが,量産化に向けて新たな問題が待ち受けていた。
駐車支援システムのソフトウエアのバグがなくならないのだ。
トヨタ自動車とアイシン精機のそれぞれが担当する開発個所が
混在していたことが原因の1つだった。
量産化に間に合わないと誰もが不安を感じ始めたその時
鶴の一声が駐車支援システムを救う。
「本当にヤバイ…」
駐車支援システムの開発責任者である里中久志と取りまとめ役だった遠藤知彦は大慌てだった。それもそのはず,アイシン精機側の取りまとめ役だった田中優が倒れたのだ。
駐車支援システムの頭脳となる電子制御ユニット(ECU)は,トヨタ自動車が自ら開発したCPUコアをアイシン精機のECUに統合するというもの。この開発において,田中はアイシン精機側の進行状況をすべて把握し,現状のどこに問題があるのか,何から進めていくべきかなどの優先順位を把握していた人物。その田中が倒れてしまったのだから,トヨタ自動車側もアイシン精機側も今後の進め方が分からなくなってしまうほどの大騒ぎに発展していた。
里中は,この最悪の状況をグループ・リーダーの岩田洋一に報告に行く。岩田は2002年1月から駐車支援システムやその他の画像認識にかかわる開発アイテムを取りまとめるグループ・リーダーの立場におり,全体の進行管理も行っていた。
「岩田さん,アイシン精機の田中君が倒れたそうです」
「えっ,本当ですか? 先週は元気にこっちに来ていましたよね」
「でも,しばらくは絶対安静だそうですよ…」
「じゃあ,今抱えているソフトウエアのバグ問題は誰が担当するんですか」
「アイシン精機に全体を把握している人はいないでしょう」
「そうか…。ヤバイなぁ,かなりヤバイなぁ…」
岩田は里中の報告を受け,しばらく難しい顔で何かを考えていたが,机上から資料らしきものをおもむろに取り出した。そして,それを手に意を決したように席を立つと,スタスタと部屋を出ていった。
鶴の一声
「お忙しいところ,すみません。ちょっと駐車支援システムの件でお話があるのですが…」