4個のカメラでクルマの周囲360度をぐるりと表示する。2個のカメラで障害物や歩行者までの距離を測定した上でブレーキやアクセルを制御する。複数のカメラを利用して初めて実現できる機能を搭載した自動車が続々登場してきた。背景には車載カメラの低価格化や車載LSIの高性能化がある。今後も続くこれらの動きの追い風を受けて,「複眼車」はさらに進化する。
カメラを用いて運転を支援する車載システムに新機軸が登場する。2種類のシステムが相次いで実用化にこぎ着けた。
先陣を切ったのは,車両周囲360度の画像を表示して駐車支援や右左折時の巻き込み防止をするシステムである。日産自動車が「アラウンドビューモニター」との名称で2007年10月に市販車に搭載した注1)。同様のシステムを,松下電器産業や三洋電機,日野自動車,クラリオンも提案している。もう一つは2個のカメラのみで前方にある障害物までの距離を検知し,アクセルやブレーキを制御して衝突を防止するもの。富士重工業が「次世代 ADA(active driving assist)」と名付けたシステムで,2008年春ごろに製品化する予定である。
注1)日産自動車は2007年10月に,ミニバン「エルグランド」を一部改良した際に,アラウンドビューモニターを一部のモデルに標準装備した。
いずれのシステムも,複数のカメラを組み合わせることでこれまでにない機能を実現した。いわば「複眼」によって車載システムが進化を遂げた格好だ。日産自動車のシステムは4個のカメラで撮影した画像を合成し,クルマの上方から俯瞰した画像を表示する。運転者は基本的にクルマの周囲を死角なく見渡せるため,駐車などが容易になる注2)。富士重工業のシステムは,2個のカメラをステレオ・カメラとして用いて距離を検知する。これにより,従来距離の測定に併用していたミリ波レーダを不要にした。
注2) クルマの上部から俯瞰した画像にするのは,モニターに多数の視点による映像をそのまま並べて表示しても「運転者が映像情報を理解しきれず」(日産自動車),混乱を来すためである。
これらの製品を皮切りに,「複眼」の車載システムは今後5年ほどでさらに進歩する見込みである(図1)。車両の周囲を見渡せる周辺視界支援システムは,5年後にも200万円以下の自動車に搭載できる価格帯を実現できそうだ。周囲の障害物を画像認識して警告を発する機能の開発も進んでいる。
2個のカメラのみを使う衝突防止システムは,測定できる障害物までの距離が大幅に延びそうだ。現在は約100m先までの障害物を認識できるのに対し,今後は200m程度先まで検知可能になるだろう。