高速道路が発電所になる?

 次に,振動から発電する技術について触れる。振動は,歩行時など熱よりもやや身近な場面で利用できるため,携帯機器などへの給電を目指した開発が多い(表2)。ただし,「首都高速道路全体の振動で東京23区内の家庭に供給する電力の4割に相当する4GW以上を発電できる」(音力発電)という試算もある。将来的な用途は微小発電だけとも限らない。

表2 振動で発電する素子の比較
表2 振動で発電する素子の比較
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 技術的には,タービン以外は,音を電力に変えるマイクとほぼ同じ技術が用いられている。ただし,振動のエネルギーは周波数と振幅によって決まるため,発電量は素子やモジュールの大きさに大きく依存する。寸法が1~2cm角かそれ以下の寸法の発電素子の発電能力は最大で数十μWと,決して大きくない。携帯機器でも,まずは2次電池に充電して使う用途が主体になる。

 慶応義塾大学発のベンチャーである音力発電は,2007年になって寸法が約30cm×60cmの板の上を体重60kgの人が歩くだけで平均約0.3Wを発電する「発電床」を開発した(図7)。この発電床は,PZTから成る直径3cm弱の圧電素子を敷き詰めた上に「振動板」と呼ぶ板を載せた構造になっている。「最近は1W近くの発電も可能になっている」(同社)。

†PZT=チタン酸ジルコン酸鉛。圧電効果を示す材料として最も一般的。ただし,人体に有毒な鉛(Pb)を使うことが課題になっている。

【図7 音力発電は3年で性能が30倍近くに向上】音力発電の「発電床」は,2008年には1Wに迫る発電性能を示した。2005年に開発したものより30倍近くも出力が向上した。これは,発電素子となる圧電素子を改良した上で,「振動版」と呼ぶ硬い板を導入して,足で直接踏まれなかった圧電素子にも振動が伝わるようにしたことによる。
図7 音力発電は3年で性能が30倍近くに向上
音力発電の「発電床」は,2008年には1Wに迫る発電性能を示した。2005年に開発したものより30倍近くも出力が向上した。これは,発電素子となる圧電素子を改良した上で,「振動版」と呼ぶ硬い板を導入して,足で直接踏まれなかった圧電素子にも振動が伝わるようにしたことによる。
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