発端はMITの論文
人体通信は,人体を伝送媒体として機器間で信号をやり取りするものだ。そのコンセプトは,1996年に米Massachusetts Institute of Technology(MIT)のT. G. Zimmerman氏がウエアラブル・コンピューティングにおける新しい機器間接続手段として提唱した論文に端を発している。そのユニークな発想に刺激されて,NTTやソニーなどが技術開発に取り組んでいた。
既に国内では,2004年に松下電工が「タッチ通信システム」として発売している。2005年にはNTTが高速伝送可能な人体通信技術「RedTacton」の開発を発表した。その後しばらく表立った動きがなく,ブームも下火になったかにみえたが,2007年に開催された「CEATEC JAPAN 2007」でアルプス電気やNTTドコモの実演が話題を集めた(図2)。
セキュリティー用途が追い風に
人体通信が再び盛り上がりを見せているのは,セキュリティー市場の広がりに起因する。2005年に施行された個人情報保護法†をきっかけに,情報漏洩に対する意識が高まり,ICカードなどを使ったセキュリティー・システムが普及。「その次の段階として,高い利便性が求められる場合も増えた」(オフィス設備などを扱うイトーキ 設備機器営業統括部 ソリューション企画部 部長の吉田佳久男氏)。そこで,安全で使い勝手を高められる技術として人体通信が注目されているのだ。
†個人情報保護法=個人情報の漏洩を防ぐため,事業者における情報の取得や取り扱い方法に関して定めた法律。2005年4月に施行された。
人体通信は,人体表面などを通じてID情報を送信できるため,IDカードやタグをポケットやカバンに入れておけば,読み取り装置に手をかざしたりドアの前に立ったりするだけで解錠が可能になる。カードを取り出さなくて済むため,ユーザーの利便性を高められるというわけだ。