モバイルWiMAX が露払いに

 LTEの導入は,2010年ごろに日本や米国で始まる見込みだ。LTEの導入を少し遅らせて「HSPA Evolution」でCDMA技術を延命する事業者もあるが,いずれLTEに収れんする注3)。このため,大きな市場を見込んで多数の送受信チップセットや基地局ハードウエアのメーカーが参入することになる。ごく初期はともかく,機器や部品の価格がサービス開始後に急速に下がる可能性は高い。

注3) 3GPPはW-CDMAを拡張した方式として,下りのデータ伝送速度を最大14Mビット/秒にしたHSDPA(リリース5),HSDPAの上りデータ伝送速度を最大5.7Mビット/秒にしたHSPA(リリ ース6),データ変調方式の変更やMIMOの導入で最大20Mビット/秒を超える下りのデータ伝送速度を達成するHSPA Evolution(リリース7)の仕様を策定済みである。

 さらに,次世代のモバイル・ブロードバンド技術のもう一つの有力候補であるモバイルWiMAXの存在が,LTEの価格を押し下げる圧力となる。モバイルWiMAXは下りの信号多重方式にOFDMAを用い,MIMOを導入するなど,採用する要素技術がLTEに似ている(表1)。モバイルWiMAXを利用したサービスは,韓国で既に始まっており,2009年には日本や米国のほか,インドやアフリカなどの新興国でも始まる見込みである。LTEの導入に先行してモバイルWiMAXサービスが普及することにより,LTEの基本技術の多くが,そのサービス開始前にある程度成熟することになる。

表1 LTEとモバイルWiMAX,次世代PHSの利用技術はほぼ共通
表1 LTEとモバイルWiMAX,次世代PHSの利用技術はほぼ共通

 「使っている要素技術は同じでも,それぞれの信号フォーマットなどに合わせた調整は必要になる。むしろ,その調整こそが重要だ。モバイルWiMAXの準備ができたからといって,それをそのままLTEに流用できるわけではない」(NTTドコモの尾上氏)という慎重な見方もあるが,やはりモバイルWiMAXの存在はLTEの普及にプラスに働きそうだ。基地局のハードウエアを提供しているメーカーの多くは,モバイルWiMAX用とLTE用のハードウエアを共用化する方針を打ち出している。例えばNECは「一つの基地局用ハードウエアでLTEとモバイルWiMAXに対応できるようにしようと検討中」(同社の近藤氏)。LTEとモバイルWiMAXは上りの信号多重方式が異なるが,信号処理のソフトウエアを変更することなどで違いを吸収する。LTEの開始前に,ハードウエアの基本動作について,商用レベルでの確認が済んでいることになる。

 米Intel Corp.や米Google Inc.といった,パソコン業界と関係の深い企業がモバイルWiMAXサービスの実現に関与することも,価格を押し下げる要因となる注4)。「モバイルWiMAXが低価格で始まったら,LTEでもそれに合わせた価格設定が必要になるだろう」(ある通信機器メーカーの製品企画担当者)。

注4) Intel社はIEEE802.16eの標準化作業や,WiMAXの普及促進に向けた団体であるWiMAX Forumの設立を主導してきた。全米規模でモバイルWiMAXサービスを展開することを表明しているClearwire社に,Intel社は10億米ドル,Google社は5億米ドルを出資している。