ドイツInfineon Technologies社が、米International Rectifier(IR)社を買収した際に手に入れたものの1つが、IR社のGaNパワー素子製品である。現行のSi(シリコン)に続く次世代のパワー半導体としてInfineon社が注力していたのは、GaN(窒化ガリウム)ではなくSiC(シリコンカーバイド)だった。しかし、同社はIR社の買収によって、SiCとGaNの両方を手掛けるようになった。Infineon社は現在、GaN関係で400を超える特許を有するという。

 加えて2015年3月には、パナソニックとGaNパワー素子を開発することに合意したことを明らかにした。パナソニックの「ノーマリーオフ」型のGaNパワートランジスタ構造を基にしたデバイスを、Infineon社の表面実装(SMD:surface-mounted device)パッケージに組み込むことになった。この合意により、Infineon社がノーマリーオフ型のGaNパワー素子を製造することができるようにもなった。

 GaNパワー素子の製品ラインアップを一気に拡充したInfineon社が今後、同素子をどのように展開していくのか。同社はパワー半導体の最大手だけに、その動向に注目が集まっていた。そんな折、2015年5月に開催された「PCIM Europe 2015」で、GaNパワー素子の製品群や同素子を利用した評価ボードを出展した他、報道機関に対して今後の製品戦略を明らかにした。

耐圧800Vが境界


 まず、次世代パワー半導体におけるSiCパワー素子とのすみ分けに関しては、「耐圧800Vを境にする。800Vより高い耐圧を求める用途ではSiCで、低い耐圧を求める用途ではGaNを用いるだろう」(Infineon社 GaN Program DirectorのSteffen Metzger氏)との見解を示した。

 800Vよりも低い耐圧になると、安価でかつ効率も高いSiパワー素子が存在する。そのため、耐圧100V未満の用途では、「Siパワー素子でも低損失でかつ非常に安価なものが特に多い。そのため、現在のところGaNパワー素子製品を展開していくつもりはない」(Metzger氏)とした。