IoT、AIによって人間が支配される時代?

 澤氏は、IoTと並んで人工知能の進化が近未来の医療にもたらす影響についても述べた。

 「近未来」を何年先と想定するかは人や分野によってまちまちだが、同氏は1962年~92年、1985年~2015年、1997年~2029年を例に挙げ、30年先を「近未来」と仮定した。「『2001年宇宙の旅』で人工知能のHAL9000が開発されるのが1992年、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は2015年にタイムマシンが発明されているという設定、『ターミネータ』は2029年の未来から人類を殺戮するロボットが送り込まれるという設定で、いずれも30年前後先の近未来を題材にしている。では、現在から30年先の近未来に何が起るか。議論になっている1つが、2045年に訪れると言われている『Technological Singularity』(技術的特異点)だ」(澤氏)。

2020年の病院を取り巻く環境とシステム
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 技術的特異点とは、コンピュータが進化し、その知能が人類の知能を凌駕する時点を言い、特異点の後では科学技術の進歩を支配するのは人類ではなく、強い人工知能やポストヒューマンだとされる。澤氏は、将棋やチェスで人間に勝つ『弱い人工知能』と人間の脳と同じように働き推論できる『強い人工知能』があることを説明しつつ、人間の仕事がこれらの人工知能に奪われるのでないかという議論があることを指摘。「手順化・マニュアル化できる仕事は、人工知能とロボットに代替される可能性がある。医学教育は安全性を担保するために手順化・マニュアル化してきたが、われわれ医療者が考えなければいけないのは、それだけに頼って医学教育を行っていくと医療者の仕事は代替されてしまうかもしれない」(澤氏)と述べた。

 また、IoTについても、「人間の中と外からモニタリングできることは、人間のモノ化の始まりの1つ。IoTで人間はモノを支配していると思っているかもしれないが、実は人間がモノとしてコントロールされる時代が訪れるかもしれない。500億のモノがつながってコントールする時代に、たかだか70億人の人間をトラッキングすることはIoTの時代には容易なのだから」(澤氏)と、IoTやAIのダークサイドにも目を向けた議論の必要性を説いた。