「2014 Symposium on VLSI Circuits」では、Executive Panel Lunchに続く午後最初のセッションとして、医療・ヘルスケア向け半導体技術を扱う「Medical Imaging」(Session 13)が行われた。

 1件目は韓国KAISTによるグルコースセンサーに関する発表(講演番号:C13-1)。採血せずに血中グルコース濃度を測定する非侵襲な手法として、これまでにも検討されてきたインピーダンスを用いる方法と近赤外光を用いる手法を併用するSoCの報告が行われた。

 インピーダンス法では、共振周波数を高精度に求めることが重要である。従来はオフチップの周波数スキャナを用いていたのに対し、今回は10k~76kHzの間の8点の周波数から共振点周辺の3周波数を見つけ、その間を詳細にスキャンする手法により従来比1.8倍の精度向上を実現した。一方の近赤外法では、850nm、950nm、1300nmの3波長の信号を取得する。

 グルコース濃度が低い場合はインピーダンス法の精度が高く、グルコース濃度が高い場合には近赤外法の精度が高い。これを基に、ANN(artificial neural network:人工的ニューラルネット)の手法を用いて精度の高い領域のデータを組み合わせた。結果として、データのもっともらしさの指標であるmARD(mean absolute relative difference)を、単独の測定による15~20%から8.3%に改善した。95%のデータが医学的に正しい(クラークグリッドエラーチャート上のA領域)と判定された。

 講演後は活発な質疑が行われた。測定結果の正しさを問う質問に対しては、発表者自身が被験者となり、何度も測定を行った結果だという説明があった。

興味深い発表が相次ぐも、日本からは発表なし

 2件目の講演は、インジェクションロック発振器に基づく干渉型リアクタンス測定を用いて、マイクロ流路を流れる磁気ビーズを同定する手法に関するもの(講演番号:C13-2)。米UCB/UCSFの共同チームが発表した。この手法では、6.5GHz、11GHz、17.5GHz、30GHzの4周波数を使い、さらにping-pong choppingと呼ぶ手法を利用して、バンド幅100kHzで1.25aFの測定感度を実現している。マイクロ流路内の流速などによりインピーダンスが変化してしまうため、その対応が今後の課題という。

 3件目は、DNAシーケンス向け技術に関するシンガポールNanyang Technological Universityの発表(講演番号:C13-3)。ISFETを用いたpH測定と、フォトダイオードによる磁気ビーズの影の直接観測を同時に行うセンサーアレイに関するものである。

 ISFETは、MOSFETのゲートに接続した最上層メタル配線層に、イオンを検出するSi3N4パッシベーションレイヤーを設けることで実現している。ISFETの読み出し回路を4T型イメージセンサー画素と共有することで、CDSなどを効果的に行う。これを通じFPNを除去し、低雑音と高フレームレートを実現した。現在は64×64アレイだが、容易に拡張可能(CMOSイメージセンサーと同様にSFでカラムを読み出す)とする。

 今回は5μm径のビーズに対して10μmピッチのセンサーを用いた。今後、それらの寸法を縮小していく計画という。また、フォトダイオードからの読み出しパス・トランジスタがISFETを兼ねることから、それによる感度のドリフトについても検討が必要としている。

 4件目は、フロリダ大学による生体埋め込み型マイクロNMRに関する報告(講演番号:C13-4)。表面コイルで磁界を加え、埋め込んだコイルで共鳴を測定し、それを無線により送信するというシステムである。電力も非接触で供給する。

 セッション全体を通じ、生体の計測に対してSoCが果たす役割を実感した。複数の手法(周波数など)を活用し、しかもそれらのデータを効果的に分類できるSoCの特徴を生かして、単一手法の精度や感度の限界を克服し、高速かつ高精度の計測を実現する成果が相次いだ。非常に興味深い分野であり、多くの聴衆を集め、活発な質疑も交わされたが、この分野で日本からの発表が今回もなかったことは残念な限りである。