2013年1月に開催されたMEMS関連の国際学会「IEEE MEMS 2013」では、革新的な医療技術の実現に向けた発表がいくつかあった。そのうちの一つは、眼球の組織に薬液を与えるDDS(薬物送達システム)機能を持たせたMEMSデバイスである(論文番号1-1)。眼球の後ろ側(露出していない側)に取り付け、デバイス自身には電源や駆動部を備えず、外部からの磁界で薬液の投与をリモート・コントロールできるようにしている。糖尿病が原因で網膜の血管が増えすぎ失明に至る病気の治療を狙ったものという。
MEMSデバイスは、主に樹脂(PDMS)で形成し、薬液を入れるタンクと、磁性材料を含む薄膜で構成した蓋から成る。蓋には、眼球表面のカーブに沿う形状のガイドを設けてあり、眼球に密着させることができる。人体の外から磁界をかけることで、薄膜がたわんでタンク内の薬液を押し出して、吐出する。磁界の強さを制御することで、任意の量を任意の時刻に与えられる。
今回、実際にデバイスを試作し、さらに献体から提供されたヒトの眼球で、実際に動作を確認した。磁界をパルス状に与えることで薬液を任意の時刻に投与できること、量についてもある程度の制御が可能なことを確認した。発表した米University California, Berkeleyによると、研究段階であり、実用化に向けて企業と共同開発する段階ではないとする。