トヨタ自動車が2005年2月に発売した新型「ヴィッツ」は運転していて、その気にさせるコンパクトカーに仕上げられていた。エンジンの種類は、従来からの1.0L、1.3L、1.5Lを引き継ぐが、そのいずれのエンジンでも、また特に走りの良さを強調したRSグレードに採用された5速手動変速機ではなくCVTであっても、心躍らせる走りに不足はない。


図1◎「ヴィッツ」フロントビュー

 偶然なのか、それとも意識的なのかは知らないが、初代ヴィッツも、2代目となる新型ヴィッツも、チーフエンジニアはシャシー設計出身者である。従って、運動性能の話をしていて尽きない。また、突っ込んだ話ができるうれしさがある。

 その中で、まず取り上げたいのが電動パワーステアリングのことである。近年、電動パワーステアリングはコンパクトカーでは必須であり、中でもトヨタは「クラウン」「マジェスタ」にも電動パワーステアリングを採用するなど、電動パワーステアリングの採用に積極的だ。ただし、電動パワーステアリングの課題は、直進状態からステアリングを切り込む際にどうしても「いかにもここからアシストが始まりました」と言わぬばかりの手ごたえの変化が生じやすいことだ。コンパクトカーに採用される、ステアリングコラムにモーターを取り付ける場合には特にそれが起きやすい。

 ところが新型ヴィッツでは、そうした不自然さを意識させられることがなかった。1.0L、1.3L、1.5Lのどのエンジンにおいても、である。タイヤサイズが185/60R15、あるいは195/50R16と違う場合でも、不自然さのない手ごたえに変わりはなかった。そこのところをチーフエンジニアに尋ねると「電動パワーステアリングの経験の積み重ねで、上手に制御できるようになったからでしょう」と、まずは簡単な回答ではあったが、さらに掘り下げていくと、「実は・・・」と続きがあった。フロントのホイールアライメントのキャスター角の傾きを強くし、キャスタートレールを大き目とすることにより、タイヤからの入力が大きくなるようにしたのだという。

 つまり、タイヤのわずかな操舵においても、ステアリングへの入力変化が大きくなり、その大きな変位差を活用して多くの情報の中からきめ細かく制御を行える。これによって、電動パワーステアリングのアシスト量を細やかに調整できるようになったのだという。したがって、こうした工夫を重ねることにより、いまや電動パワーステアリングの方式がラック式かコラム式かといった形式で、感触の良否を左右されることはなくなるだろうと、チーフエンジニアはいう。それほど、新型ヴィッツの電動パワーステアリングの制御には自信を持っているのである。