これまでの日本は、自他ともに認める「ロボット大国」だった。経済産業省の「ロボット産業市場動向調査」によると、2011年時点での産業用ロボットの世界市場6628億円のうち、日本企業のシェアは50.2%と圧倒的な強さを示していた。さらにロボットの応用を広げる取り組みも活発だった。ソニーのペットロボット「AIBO」、ホンダの2足歩行ロボット「ASIMO」など、大きな注目を集める試みが相次いでいた。

 ところが、日本の独走状態だったロボット産業も、海外の企業の事業化の動きが活発化し、様相が変わってきた。既に、商業的に成功した海外発のロボットも登場。米iRobot社が開発した掃除ロボット「ルンバ」は、累計1000万台を超えるヒット商品になった。ソフトバンクが6月に発売し、第1回の一般向け販売分1000台が、わずか1分で完売したパーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」も、開発元はフランスのAldebaran Robotics社である。

 各国や地域の政府による技術開発の促進と産業の育成に向けた取り組みも、加速。米国政府は2011年に「National Robotics Initiative」を発表し、人工知能分野や認識分野を中心としたロボットの基礎研究に、毎年数千万米ドル規模の支援を実施している。また、欧州では、2014 年に欧州委員会と約 180 の民間企業・研究機関が共同で「EU SPARC Project」を立ち上げて、「Industory4.0」などに資する実用ロボットの開発を推進。この中で、総計 28 億ユーロ規模のプロジェクトが予定されている。中国政府も「智能製造装置産業発展計画(2012 年)」 において、産業用ロボットの国内売上を 2020年までに10 倍(3兆元)にするとの目標を掲げ、自国のロボットメーカーの育成に力を入れている。

 今回のテクノ大喜利では、「新時代を迎えるロボット産業と半導体」をテーマに、世界的に急速に熱を帯び始めたロボットの技術開発と産業育成の動きと、半導体産業の関わりについて考えることを目的とする。半導体業界をウォッチする証券アナリストの視点から野村證券の和田木哲哉氏が回答する。

和田木 哲哉(わだき てつや)
野村證券 グローバル・リサーチ本部 エクイティ・リサーチ部 エレクトロニクス・チーム マネージング・ディレクター
和田木 哲哉(わだき てつや) 1991年東京エレクトロンを経て、2000年に野村證券入社。アナリストとして精密機械・半導体製造装置セクター担当。2010年にInstitutional Investor誌 アナリストランキング1位、2011年 日経ヴェリタス人気アナリストランキング 精密半導体製造装置セクター 1位。著書に「爆発する太陽電池産業」(東洋経済)、「徹底解析半導体製造装置産業」(工業調査会)など

【質問1】ロボット産業の成長は、半導体市場の成長をけん引するインパクトがあると思いますか?
【回答】大きなインパクトがあるどころか、ハイテク世界の様相を一変させる

【質問2】ロボット産業の成長は、どのような半導体メーカーに新たなビジネスチャンスをもたらすと思いますか?
【回答】センサー、パワーデバイス、FPGA、高速ロジック、高速不揮発メモリー、不揮発ロジック

【質問3】半導体メーカーがロボット向け半導体事業を育成する場合、戦略策定時に参照できる類似応用市場は何だと思いますか?
【回答】介護用品、電力、軍需、自動車など

【質問1の回答】大きなインパクトがあるどころか、ハイテク世界の様相を一変させる


 まず最初に、ロボット産業において、日本は大きな危機に直面していることを指摘しておきたい。お家芸だったはずの、ハードウェアとしてのロボット開発では、手をこまねいているうちに、韓国、米国、ドイツなどに追い抜かれた感もある。これらの国からは、日本のロボットを上回る性能のものが出てきており、さすがに日本のロボット産業もあわて始めた。ただし、危機ではあるが、まだ挽回可能でもある。