半導体業界で業界を震撼させる大型M&Aが次々とまとまっている。テクノ大喜利では、こうした業界の形を変えるM&Aによって、半導体業界内の各社が新たに得た機会と抱えたリスクを考え、半導体業界のこれから姿を読む視点の発掘を目指した。今回の回答者は、IHSテクノロジーの大山 聡氏である。

大山 聡(おおやま さとる)
IHSテクノロジー 主席アナリスト

1985年東京エレクトロン入社。1996年から2004年までABNアムロ証券、リーマンブラザーズ証券などで産業エレクトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職、半導体部門の経営戦略に従事。2010年より現職で、二次電池をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。

【質問1】Intel社によるAltera社の買収、Avago社によるBroadcom社の買収。それぞれが新たに得た機会と新たに抱えた危機は何だと思われますか?
【回答】 Intel社は通信インフラや車載機器など、パソコン以外のビジネスチャンスを得たが、自社のビジネスモデルを見直す必要がある。Avago社は高速I/O向けにASICだけでなくASSPを組み合せたソリューションを展開できるが、急な事業拡大による混乱があり得る。

【質問2】大型M&Aが立て続けに起きた結果、現在動いていない半導体メジャーが新たに得た機会と新たに抱えた危機は何だと思われますか?
【回答】 IoT時代市場をにらんで、各社の戦略の具体化が加速。具体化できない会社は取り残される危険性がある

【質問3】世界の大きな業界再編の動きによって、日本の半導体メーカーが得た新たな機会と、新たに抱えた危機は何だと思われますか?
【回答】自社が目指すべきIoTの具体化戦略とは何かを徹底的に議論するのは今しかない。ここで戦略を具体化できないと取り残される

【質問1の回答】Intel社は通信インフラや車載機器など、パソコン以外のビジネスチャンスを得たが、自社のビジネスモデルを見直す必要がある。Avago社は高速I/O向けにASICだけでなくASSPを組み合せたソリューションを展開できるが、急な事業拡大による混乱があり得る。

 Intel社は、Windowsパソコンが普及し始めた1992年からずっと半導体売上世界一の座を守り続けている。しかし、パソコンの出荷台数は2011年の3億5000万台をピークに減少に転じた。

新たなビジネスモデルに取り組むIntel


 パソコンに求められるスペックについても、マイクロプロセッサーの動作周波数やメモリー搭載容量が当たり前のように上昇傾向にあった時代とは異なり、1台当たりの製品寿命も徐々にのびる傾向にある。一方、スマートフォンは、出荷台数もスペックも上昇傾向を維持しており、買い替えサイクルも短いままである。両市場は極めて対照的な状況にある。スマートフォンはIoT(internet of things)市場のキーデバイスとなる可能性も秘めており、この市場に入り込めなかったIntel社としては何らかの対策を講じる必要があったわけだ。

 端末側がダメならインフラ側がある。クラウドに必要とされるサーバーの需要は増加傾向にあり、サーバー向けマイクロプロセッサーに強いIntel社にとっても追い風のはずだ。ところが、サーバーの低消費電力化やコスト削減を目的に、同社のマイクロプロセッサーではなく、FPGAを組み合せる代案が浮上している。Microsoft社などの一部のデータセンターでは、心臓部をFPGAで構成したサーバーの導入が既に始まっている。

 これまでIT業界の王座に君臨してきたIntel社にとっては、このままでは端末側でもインフラ側でもその座から引きずり下ろされるという危機感があったはずだ。これが今回の買収劇の背景だろう。

 Altera社は長年にわたってTSMCに製造を委託してきたが、14nm世代からは委託先をIntel社に切り替えることが決まっていた。両社のファウンドリー契約は今回の買収劇よりも前に成立していたが、「将来的にM&Aを行うことを見越した契約だった」可能性は、果たしてないか。いずれにしても今回の買収劇は、Intel社がこれまでのビジネスモデルへのこだわりを捨て、新たなビジネスモデルに取り組む意思の表れに他ならない。

新生Broadcomはクラウドインフラで圧倒的な強み


 Avago社は2013年に米LSI社を買収したばかり。LSI社はストレージ向けASICを得意とし、データセンターなどのクラウドインフラ側を中心に事業を展開してきた。LSI社の買収によって、Avago社はHewlett-Packard(HP)社時代から継続するアナログICや高周波ICと併せて、サーバー周辺の高速I/O需要に応えるソリューションを提供できる数少ないデバイスメーカーの1社となった。

 ASICは薄利で需要も頭打ち、コストが高いからASSPに置き換えられる、などと言われ続けてきた。こうした中、Avago社は40%を超える粗利率を維持してきた。同社は非常に高速なSerDesのオリジナルIPを持っている。例え同じ台湾TSMCの最先端プロセスを使って製造したとしても、他社のIPに比べて、同社のIPが最も高速に動作するとの定評がある。高速通信用ASSPのベンダーであるBroadcom社と経営統合することで、クラウドインフラに対するソリューション提供にも一層の幅ができるだろう。

 Avago社の年間売上高が43億米ドル規模であるのに対し、Broadcom社は同84億米ドル。そして買収金額は370億米ドルだ。自社の約2倍の売り上げを持つ企業を、売り上げの10倍に迫る金額で買収したことになる。積極的な英断ではあるが、一気に拡大した事業規模を統制する上で、社内が混乱する可能性はあるだろう。