さがみ化学物質管理代表取締役の林宏氏
さがみ化学物質管理代表取締役の林宏氏
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 化学物質管理規則が年々厳しくなっている。対象が広がり、従来は化学品に限られていたが、現在では最終製品である成形品まで含まれるようになった。そのため、自動車や自動車部品での対応が必須になっている。

 「技術者塾」において「自動車、自動車部品に要求される化学物質管理規則への対応」〔2015年7月6日(月)〕の講座を持つ、さがみ化学物質管理代表取締役林 宏氏に、今、化学物質管理規則を学ぶ必要性について聞いた。(聞き手は近岡 裕)


──化学物質管理規則は、今、なぜ求められるのでしょうか。

林氏: 化学物質管理規則の分野で、最もインパクトの大きな出来事は、2002年に開催された地球環境問題に関する国際会議(環境開発サミット)「持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)」です。これが世界の化学物質管理規則を加速させました。

 なぜなら、WSSDで示された目標からブレークダウンされるかたちで、残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約などの国際条約や、国連勧告である「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」(GHS、Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)などが出てきたからです。

 ストックホルム条約は、毒性が強く、残留性や生物蓄積性があって、人の健康や環境に悪影響を及ぼす化学物質〔ダイオキシン類、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)など〕の国際規制を強化するもの。GHSは、化学品の持つ危険有害性(ハザード)ごとに分類基準やラベル、安全データシートの内容を調和させ、世界的に統一されたルールとして提供することを求める規制です。

 WSSD目標は、世界中の国の共通認識、すなわちグローバルスタンダードとなりました。すなわち、各国が化学物質管理規則を制定・改正する際に、WSSD目標を基準にするようになったのです。そのため、WSSD目標は、直接企業活動などに影響を与えています。特に、欧州連合(EU)による、化学物質とその使用を管理する欧州議会および欧州理事会規則(REACH、 Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals)の施行は、企業に衝撃を与えました。

 このように、化学物質管理は今、法規遵守という観点からだけでも企業活動の上では必須項目になっているのです。


──化学物質管理規則は、今後ますます必要とされるようになるのでしょうか。また、その理由(背景)は何ですか。

林氏:WSSDでは2020年の目標達成を目指しています。そのため、これに準ずる形で、各国の法規の施行なども2020年をマイルストーンとしています。つまり、現在は「過渡期」に相当するのです。要するに、現在は最初に描いた計画を達成すべく苦労を重ねている真っ最中ということになります。

 特に、成形品(最終製品)が化学物質管理の対象となったことが、日本企業を慌てさせました。従来は化学メーカーやサプライヤーに任せていればよかったのに、新しい法規などの下では、最終製品のメーカーである自動車メーカーや自動車部品メーカー、電気・電子メーカーまでもが、化学物質を厳しく管理する必要性に迫られているからです。こうした企業は、化学物質管理になじみのないところが多いのですが、法規対応を急がなければならないのです。

 しかも、2020年にWSSD目標を達成すれば済むという話にはならないでしょう。世界の排出ガス規制をみれば想像がつくと思います。規制は年々、厳しくなる一方です。化学物質管理規則についても、同様のことが考えられます。すなわち、持続可能な成長を目指して、次のより厳しい段階に進むのは明白です。従って、2020年のWSSD目標をしっかり押さえるだけではなく、次の方向性をもにらんでおく必要があるのです。

 もしも、化学物質管理規則を軽視したらどうなるか。まず、世界で製品を販売することが実質的にできなくなる。それだけではなく、「環境に優しくない企業」というレッテルを貼られ、企業イメージを著しく損なう危険性があります。


──「技術者塾」では、どのようなポイントに力点を置いて説明する予定ですか。また、そこに力点を置く理由を教えてください。

林氏:全体の仕組みを体系的に理解してもらうことに最初の重点を置きます。続いて、タイトルに「自動車、自動車部品に要求される」とある通り、自動車業界に焦点を当てます。自動車業界で求められる化学物質管理規則は、主に成形品に分類されると思います。そこで、成形品の化学物質管理とサプライチェーンの情報伝達に重点を置いて説明していきます。


──想定する受講者はどのような方ですか。

林氏:企業で化学物質管理を担当する方はもちろん、管理職として化学物質管理の内容を概念的に把握したい方を想定しています。また、化学物質管理とは何かを基礎から勉強したい方にとっても役に立つと思います。


──技術者塾を受講することで、受講者はどのようなスキルを身に付けることができるのでしょうか。

林氏: ますます厳しくなる化学物質管理規則について、国内はもちろん海外の状況も含めて管理規則の基本事項について学べます。また、化学物質管理規制に対応するための具体的な知識やノウハウを習得できます。そして、化学物質管理規制の今後の動向に関して、最新の情報が入手できます。

 特に言いたいのは、化学物質管理を体系的に理解できることです。仕組みとして把握することができれば、各種の法規に対して「ここは大丈夫かな?」というポイントに気づく感性をスキルとして磨くことができるのです。