Avago Technology社がBroadcom社を370億米ドルで、Intel社がAltera社を167億米ドルで買収することになった。半導体業界の激動の象徴とも言える大型案件である。双方の案件、そしてそれ以前のNXP Semiconductors社やInfineon Technologies社による案件によって、半導体業界全体の地勢が大きく変わる可能性が出てきている。
一方で、半導体業界の中には、今のところこうした動きと連動していないメジャープレーヤーもある。Samsung Electronics社、TSMC、東芝、Qualcomm社、MediaTek社などである。今回の業界を震わせる大型M&Aが、こうしたメジャープレーヤーにどのような影響を与えるのか気になるところだ。
一方、日本の半導体メーカーの多くは、今の半導体業界を包む大きなうねりの中心にはいない。正直、青息吐息で、生き残っているのが幸いという状態に、今回の大きな変化が襲う。事業環境の変化は、一面で新たな危機の要因にもなりかねませんが、もう一面でこれまで弱かった者に新たな未来を拓く機会を作り出す可能性もある。
今回のテクノ大喜利は、未曾有の同時多発大型M&Aによって、半導体業界の中でのさまざまなポジションにいるプレーヤーが得た機会と抱えたリスクを考え、半導体業界の地勢の変化を読むための視点を発掘することを目的とした。最初の回答者は、アーサー・D・リトルの三ツ谷翔太氏である。
アーサー・D・リトル(ジャパン) プリンシパル
【質問1の回答】新たな勝ちパターンへの先鞭。ただし、真の課題は実行フェーズにある
半導体を取り巻く事業環境は、近年大きな変化を迎えている。市場の視点から見ると、既存分野が成熟を迎える中で、新規分野における市場のフラグメントや競争スピードの激化、さらには事業におけるデバイスの付加価値比率の減少が進んでいる。また、技術の視点から見ると、開発・設備への投資負担がますます重くなる一方で、これまでのような技術起点でのイノベーションの余地が漸減。イノベーションの起点は顧客起点へとシフトしている。
このような事業環境変化に伴って、半導体産業では、従来の規模追求型とは異なる新たな事業モデルが存在感を増してきた。それは特定領域での知見集積やエコシステム構築を通じたソリューション型事業への転換である。
半導体産業の勝ちパターンが変わってくる
今回の一連の大型買収は、まさにソリューション型事業への転換を推し進めるものである。従来しばしば見受けられた規模追求のための買収とは、一線を画す新しい動きと捉えるべきであると感じている。今回の大型買収を通じて、Intel社は、データセンターにおけるソリューションプロバイダとしての、Avago社は通信におけるソリューションプロバイダとしての地盤を強めた。つまり、新たな事業モデルへの転換・強化を大きく進める買収だ。
一方で、真に事業モデルを転換する上では、両社はまだ実行面での課題・チャレンジが残っている。技術的には、例えばユーザーがFPGAを使いこなすためのツールなど、周辺技術の拡充は必要不可欠だ。また、それ以上に重要な課題は、従来のベストプロダクトやオペレーションエクセレンス追求を重視した規模追求型の事業モデルから、ソリューション型事業への転換に向けた社内の組織文化を含めた改革にある。別業界の例を紐解くと、例えばGE社はソリューション事業への転換にあたって、「GEバリュー(人材像や組織風土)」を、生産性を追求したものから顧客志向を重視したものへと再定義し、その社内浸透を図ってきた。
両社の買収は、確かにソリューション型事業への転換といった機会につながるものである。しかし、それが成功裏に終わるのかどうかは、今後のPMI(経営統合)における改革の進捗に左右される。