技術革新が進みIoT(Internet of Things)、ヒトとロボット、ビッグデータ、AI(人工知能)、スマートファクトリーなど、次々に新たなトレンドが登場しつつあり、変化の速度はますます加速している。

 この大きな変化への対応を見誤ると企業の存亡すら危うくなる時代になっている。競争相手も日本企業だけという時代は過去のものになり、競争の実態やルールが刻々と変わっている。企業の経営陣以下、どの事業部門、どの職能部門にとっても舵取りがますます困難な時代に突入している。

 企業戦略のあり方をめぐる議論は盛んである。変化が激しい時代において、厳しい競争を乗り切るためには、乗り切るだけの力をもたらす経営戦略が欠かせない。東京大学の新宅純二郎教授1)は、それを将来に渡る戦略構想の豊かさとビジョンを具体的に実現するためのオペレーショナルな力の両輪として整理している。競争優位の源泉として「戦略の策定と実行は不可分なプロセスであり、そのプロセスの中で戦略を策定する能力と実行する能力を向上させる」必要性を説いている2)

オペレーショナルな力としての交渉力

 交渉力は企業経営にとって複数レベルで重要になる(関連URL)。日常的には職能レベルでのオペレーションにおいて、さらにその上位の事業部門における他社との競争戦略においても、さらに企業にとり最上位にある全社戦略においても、目標やビジョンを実現するツールとして重要である。

 しかし、交渉力が重要性をもつのは上位レベルにおける交渉で、全社戦略や事業戦略でどう発揮されるかの場面である。今回の連載で取り上げたいのは、企業の将来的な存亡にも影響を与えかねない上位レベルでの交渉の話である。全社戦略、事業戦略を実現する場面において、交渉力がオペレーショナルな力の一つとして、その役割を果たしているかが問題となる。オペレーショナルな力が欠けているとすれば企業は片輪だけの走行となり、全社戦略・事業戦略の実現はおぼつかない。日々の活動レベルでの交渉も大事であるが、次回(2015年6月30日公開予定)からは上位レベルの交渉をその重要性から取り上げる。


注釈・文献

1)網倉久永,新宅純二郎 『経営戦略入門』日本経済新聞出版社。同書では経営戦略を「企業が実現したいと考える目標と、それを実現させるための道筋を、外部環境と内部資源とを関連付けて描いた、将来にわたる見取り図」と定義する。

2)網倉久永,新宅純二郎 『経営戦略入門』日本経済新聞出版社、 p.440.