企業の本質とは、ビジネスマンという人間の集まりであり、そのビジネスマンが行うビジネスの本質とは、顧客価値を生むことである。 これまで、これら2つの本質に準じて、ソニーの中期経営方針の基本をなす3つの事項の内、2つにダメを、1つに半ダメを出し、続けて、その評価を補足する意味で、「価値」と「全体最適」を掘り下げた。だが、まだ十分ではない。

 そこで、今回は、「価値」と「全体最適」を深掘りしつつ、ソニーの中期経営方針や関連事項に触れていきたい。

 まず、「価値」から掘り下げる。前回述べたように、エコノミストやコンサルタントなど、経済・ビジネスの専門家とされる人たちの多くは、「企業価値」を投資家という特定のステークホルダーにとっての価値とする考えを持っている。また、彼らの影響を受けてのことなのか、中期経営方針発表の場で、ソニーの社長である平井一夫さんもそれに準じた発言を披露していた。

 しかし、企業は、顧客や従業員、サプライヤー、投資家などのステークホルダー全てにとっての価値を生む存在である以上、その考えは、いかにも稚拙な誤りであり、それが投資家の立場から発せられる場合は、傲慢な誤りですらある。彼らは、価値というものをまるで分かっていないのだ。

 ならば、世の中一般が価値というものを分かっているかと言うと、経済・ビジネスの専門家が分かっていないせいでもあるのだろうが、実は、相当怪しい。

 ここでは話を単純化するために顧客価値=商品価値とするが、例えば価値の一種である商品価値とは、その対価を支払う者である顧客が商品を使用する中で、商品についての認識を持つことによってはじめて発生するものだ。ならば、商品価値は、顧客の精神の中にあり、商品にはないと考えざるを得ない。だからこそ、企業のブランドイメージが変われば、商品そのものは変わらなくても商品価値は変わる。また、商品そのものがなくなっても、それを思い出すことで商品価値は再現されるのだ。

 ところが、世の中では、ただ「なんとなく」商品価値は商品にあると考えられており、「なんとなく」であるが故に、改めて商品価値がどこにあるかと問われれば、ほとんどの人は答えに詰まることになる。日ごろ、誰もが仕事や生活で多かれ少なかれ商品価値のことを考えているはずなのに、である。