「日本の技術をいのちのために」の最良見本

 iArmSは、2014年10月に「第6回 ロボット大賞」の優秀賞を受賞した。モータレス構造による高い安全性とともに、任意の位置での固定が可能いう操作性の良さが評価されたものだ。

 これまでセンサー技術・制御技術の生きる分野での製品群を提供し続けてきたデンソーの固有技術を、医療分野で開花させた成果ともいえる。技術とその信頼性の高さを示す快挙だが、その開発過程においては、周到な総合企画のもとに到達しえたといえよう。

 具体的な戦略の一つは、信州大学および東京女子医科大学との共同開発で、これこそ「医工連携」の模範例といえるものだ。技術志向だけでなく、医療ニーズを具体的な製品として実現するためのユーザーサイドとの臨床研究を基盤としている。手術時の医師側からの要望に対して、理想的な機構を提供しようとの共同意志が働いている。

 それと同時に、従来からデンソーが進めてきたクルマの環境性能向上や安全性向上に直結する技術を、医療の分野に生かそうという会社としての意識の共有性もある。こうした優れた技術は医療の分野でも必ず生かせる、という確信さえ感じさせる。

 「日本の技術をいのちのために」は、この分野では米国に先行を許している状況下で、ものづくりにおいて優位性のある日本固有の技術を医療に生かそうという運動である。その先鋒を切ったようなデンソーの決断には、医療機器産業界からも歓迎の意向がうかがえる。

 あえて、一つだけ課題をあげるとするなら、これまでの産業構造から見れば、異業種参入ゆえの販売戦略の確立が必要かもしれない。要は、良いものができても普及しなければ何にもならない。産官学という掛け声だけでなく、優れた国産品に仕立て上げ、しかも世界で翔けるような協力体制の構築が望まれる。