このコラムでは、「リアル開発会議」で提案している遠隔診断システムについて、その進捗を追っていく。そもそもの始まりは、ある企業が、映像で医師と患者を結び付ける在宅診療向けのシステムを開発したことに遡る。ビデオ通話による医師への相談、モバイル端末のカメラで患部を撮影して医師の診断を仰ぐことはもちろんのこと、緊急時に映像を通じて患者の様子を確認することも可能だ。最大の特徴は、タブレット端末「iPad」を2台とノートパソコン「MacBook」を用意するだけで、システムを構築できること。ユーザーの数が増えても端末を追加するだけで済む。現状使えるモバイル端末は「iOS」対応機器。iPadのほか、「iPad mini」や「iPhone」などの利用が可能である。

 通信回線には「LTE」や無線LANといった既存のモバイル回線が使える。第3世代移動体通信「3G」などの比較的低速な回線でも、安定してシステムを運用できることが売りである。患者の情報をノートパソコンで一元管理するため、複数の介護事業者や医療機関などで連携させることもできる。通信ネットワークのセキュリティーも確保しており、システム構築費も手ごろなことから、既に遠隔診療や看護、介護などを手掛ける事業者が利用を開始している。

遠隔診断システムの用途イメージ
イラスト:楠本礼子

 「瞬時につながって映像で会話できるし、撮影した画像もきれいだ」―。この在宅診療のシステムを初めて見た時の感想である。小規模から構築でき、安価に導入できる。何より既に医療機関が安心して利用しているほど、セキュリティー面も優れている。

 そこで、ふと思った。これって遠隔地から様々なものを診断するシステムとして、いろいろ使えるのでないかと。例えば、工場だ。生産設備で何か問題が起こった際に、遠隔から対策を指示できれば、その効果は大きい。特に、工場をいくつも抱える企業には朗報だろう。現地に対策担当者を派遣しなくとも、対処できる件数を増やせるかもしれない。

 社会問題となりつつある老朽インフラ対策では、専門家が現場に赴かなくとも、その場で撮影した写真や映像から緊急性を判断し、データベース化することができそうだ。

 アイデアは業務用だけにとどまらない。例えば、家族の見守りサービスはどうだろうか。今後、親の介護問題によって働き方を変える人が増加するとされている。そうした場合でも家族が付きっきりで介護するのではなく、見守りサービスを利用できれば、その負担を減らせるはずだ。今回のシステムを在宅診療やデイケア、食事配達など、他のサービスと連携させれば、働き方を大きく変えずに済むだろう。この見守りサービスを企業が福利厚生施策として導入してもおかしくない。