Apple社が日本に技術開発拠点を置くことになったことを深く考えて、現在そして将来の日本の電子産業の価値を再認識することを目的とする今回のSCR大喜利。5人目の回答者は、IHSテクノロジーの南川明氏である。

南川 明(みなみかわ あきら)
IHSテクノロジー 日本調査部ディレクター
南川 明(みなみかわ あきら)
 1982年からモトローラ/HongKong Motorola Marketing specialistに勤務後、1990年ガートナー ジャパン データクエストに移籍、半導体産業分析部のシニアアナリストとして活躍。その後、IDC Japan、WestLB証券会社、クレディーリヨネ証券会社にて、一貫して半導体産業や電子産業の分析に従事してきた。2004年には独立調査会社のデータガレージを設立、2006年に米iSuppli社と合併、2010年のIHSグローバル社との合併に伴って現職。JEITAでは10年以上に渡り,世界の電子機器と半導体中長期展望委員会の中心アナリストとして従事する。定期的に台湾主催の半導体シンポジウムで講演を行うなど、アジアでの調査・コンサルティングを強化してきた。

【質問1】日本に研究所を置くことで、Apple社はどのようなメリットを得ると思われますか?
【回答】世界が直面する課題を先取りし、世界の流れとは異質な視点を得る

【質問2】Apple社の研究所設置で生まれる機会を、日本のどのような業種の企業がどのように活用すべきと思われますか?
【回答】技術に自信がある企業は売り込むべき

【質問3】今回のApple社の動きは、海外の他の電子産業の企業にも波及する可能性のある動きなのでしょうか?
【回答】多くの企業が今後、研究施設を日本に開設するだろう

【質問1の回答】世界が直面する課題を先取りし、世界の流れとは異質な視点を得る


 iPhoneに大量に採用されている電子部品、パネル、カメラ、電子材料が日本製であることは有名な話である。また、自動車産業に参入すると噂されていることから車載エレクトロニクス、バッテリー、センサー、炭素繊維など、日本にはこの分野をリードするさまざまな技術がある。しかし、最大の関心事は高齢化社会へのIoT実験ではないだろうか。

 薬事法が改定され、日本は、今や先進国では最も新薬や医療機器の認可スピードが速くなった。高齢化社会に対応する医療機器やサービスを試すには最適の場所となった。日本が世界で最も早く高齢化社会に突き進んでいる国であることは有名だが、日本の健康医療制度が破たんしていることはそれほど知られてはいない。40兆円ある日本の医療費のうち、15兆円分が不足し、税金で補てんされている。これは多くの先進国が共通して抱えている悩みであり、これを最も早く解決することが求められている国が日本なのだ。

 そして、2020年に控えたオリンピックでスマートな社会、安全な社会を見せたい日本では、今後さまざまなIoTサービスの試みが試されるだろう。海外から見て日本は、やはりミステリアスな国である。商習慣、食文化、ガラパゴス文化、時間に正確な公共交通機関、ゴミの落ちていない町、おもてなし、などの海外に無い価値観を持っている。こうした国に研究機関を設けることの意味は大きいと思っているのではないか。故Jobs氏が日本の武士道精神に興味を持ち、ソニーのウォークマンに影響を受けたという話は有名である。日本から学ぶことは多いというDNAが、Apple社には残っているのではないか。