2015年3月、Apple社が横浜市綱島のパナソニックの工場跡地に、大規模な技術開発拠点を開設すると発表した。同地は次世代型スマートシティ「Tsunashima サスティナブル・スマートタウン」として再開発される予定であり、2015年度内に着工し、Apple社の施設は2016年度から稼動すると言う。この発表に先駆けて、2014年12月に安部首相が、選挙の応援演説の中でこの計画をリークしたこともあり、広く話題となった。

 開設する研究所は、アジアの中心的研究開発拠点として作られる予定だという。1万2500m2の敷地に4階建て、延べ床面積が2万5000m2と都心にある研究所としては、結構大規模なものとなる。Apple社は公式発表に先駆けた3月中旬に、求人情報メディア「リクナビNEXT」上に、同研究所の人材募集を掲載しました。求めている人材として、「IC 評価エンジニア」「Mixed-Signal IC テストエンジニア」「IC検証エンジニア」「Mixed-Signal IC プロダクトエンジニア」「アナログ IC デザイナー」「シニアCADエンジニア(フロントエンド)」などを挙げている。

 Apple社が日本に技術開発拠点を置くという話を聞いて、「なぜ今日本に技術開発拠点を作るのか」と感じた人が多かったのではないか。日本の電子産業は、受動部品など一部で活況を維持している分野を除いて、お世辞にも元気がよいとは言えない状況である。ただ部品を買うだけならば、大規模な技術開発拠点を置かなくてもこと足りるようにも思える。今回のSCR大喜利は、Apple社が日本に技術開発拠点を置くことになったという事実を深く考えることで、現在そして将来の日本の電子産業の価値を再認識することを目的とする。最初の回答者は、服部コンサルティングインターナショナルの服部毅氏である。

服部毅(はっとり たけし)
服部コンサルティング インターナショナル 代表
服部毅(はっとり たけし) 大手電機メーカーに30年余り勤務し、半導体部門で基礎研究、デバイス・プロセス開発から量産ラインの歩留まり向上まで広範な業務を担当。この間、本社経営/研究企画業務、米国スタンフォード大学集積回路研究所客員研究員等も経験。2007年に技術・経営コンサルタント、国際技術ジャーナリストとして独立し現在に至る。The Electrochemical Society (ECS)フェロー・理事。半導体専門誌にグローバルな見地から半導体業界展望コラムを8年間にわたり連載。近著に「半導体MEMSのための超臨界流体(コロナ社)」「メガトレンド半導体2014ー2023(日経BP社)」がある(共に共著)。

【質問1】日本に研究所を置くことで、Apple社はどのようなメリットを得ると思われますか?
【回答】 (1)日本の得意な材料・部品を含んだ一気通貫サプライチェーンの構築、(2)日本の優秀な理系人材の活用、日本企業の知財・ノウハウの獲得、(3)日本の厳しい顧客が満足する画期的最終製品の開発で現状打破

【質問2】Apple社の研究所設置で生まれる機会を、日本のどのような業種の企業がどのように活用すべきと思われますか?
【回答】中途人材仲介事業者による日本人優秀人材のApple社への紹介、尖った機能材料や部品を持った中小企業のApple横浜への直接売り込み・協業

【質問3】今回のApple社の動きは、海外の他の電子産業の企業にも波及する可能性のある動きなのでしょうか?
【回答】むしろApple社が、研究や企画・設計で日本に次々進出している他社に追従した

【質問1の回答】(1)日本の得意な材料・部品を含んだ一気通貫サプライチェーンの構築、(2)日本の優秀な理系人材の活用、日本企業の知財・ノウハウの獲得、(3)日本の厳しい顧客が満足する画期的最終製品の開発で現状打破

 Apple社は、横浜みなとみらい進出にあたっても、その後の綱島進出にあたっても「日本でさらなる業務拡大ができることを喜ばしく思う」「何も答えることはない」とそっけないコメントを繰り返し出すだけだ。研究開発の規模や内容には一切言及していない。新聞記事の内容はすべて憶測の域を出ない。だから、一体何をやろうとしているのか想像するしかない。

 Apple社の新たな人材募集情報はヒントになろうが、大喜利前文に挙げられているような職種のほとんどは、Apple社テクニカル・ディベロップメント・センターの日本進出発表以前から募集してきた職種である。ある程度の規模のオフィスがあればこと足りるわけで、Tsunashimaサステイナブル・スマートタウンにわざわざ巨大な研究施設を作る必要もないだろう。