図◎トヨタ自動車名誉会長の豊田章一郎氏。自動車産業の持続的成長のために大切だと思うことを語った。
図◎トヨタ自動車名誉会長の豊田章一郎氏。自動車産業の持続的成長のために大切だと思うことを語った。
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 「私が半世紀以上にわたって関わってきた自動車産業が持続可能な成長を果たすために、大切だと思っていることは3つある」──。2015年6月5日、トヨタ自動車名誉会長の豊田章一郎氏は、日本科学技術連盟が主催した「第100回記念 品質管理シンポジウム」に登壇してこう語った。その大切な3つとは、[1]イノベーションの推進、[2]品質の向上、[3]人づくり、である。これらの重要性をトヨタ自動車の新旧の取り組みを織り交ぜながら同氏は説明した。

 [1]のイノベーションの推進では、まず、かつてトヨタ自動車が技術革新によって成長に弾みをつけた2つの出来事を例に挙げた。1つは1973年と1975年の2度にわたって起きたオイルショックで、もう1つは1970年に米国で制定された排出ガス規制法(通称:マスキー法)である。これらを乗り越えるための技術開発が、同社にとって「飛躍の契機となった」(同氏)。

 特に、マスキー法への対応については、「当初は無茶と思えるほど厳しい規制で、企業の存亡にも関わるほどの危機だった」(同氏)。だが、トヨタ自動車は発想を転換。同法を飛躍のチャンスと捉え、低燃費と性能の両方を向上させるという高い目標を掲げて技術開発に挑戦した。その結果、新材料や電気・電子などを採用したさまざまな統合システムが生まれ、トヨタ車の性能が大幅に高まって国際競争力が向上したという。

 一方で、トヨタ自動車は長期的な視点に立ち、幅広い技術の蓄積にも努めて技術のブレークスルーを図った。例えば、環境分野では、レシプロエンジンの改良はもちろん、天然ガスや電気を動力源として活用することや、ガスタービンとバッテリーの併用によるハイブリッド方式の開発など、さまざまな技術の可能性を追求した。これが、現在のハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車「MIRAI」などにつながった。

 安全分野では、カメラやレーダーの装備による認知能力の向上や情報通信技術の開発により、安全運転支援技術などを進化させた。現在、同社は高度運転支援や自動運転の実用化も視野に入れているという。

 交通事故死亡者をゼロにするという究極の目標を目指し、クルマと道路、およびクルマと歩行者の情報のやりとりを行う技術開発も進めている。さらに、社会インフラをどのように整備すべきか、人とクルマが安全で快適に共存する街づくりはどうあるべきかについても研究を進めているという。

 現在は、ITやICTがクルマを大きく進化させている。そのため、これまでのメカニカル的な技術者の発想を大きく転換することが大切だと豊田氏は言う。「現在の変化は既に起こった未来と捉え、変化の潮流を的確につかんで、顧客に求められる魅力的なクルマや交通システムは何かを常に研究すること。そして、20年後、30年後のクルマ社会をにらんで大きなビジョンを描き、その実現に向けて大胆な発想と行動でスピーディーにイノベーションに挑戦することが大切だ」(同氏)。