電子回路や電子部品の特性評価で使われるSパラメータ――。マイクロ波やミリ波など高周波回路の設計を進めるとき、設計者にはSパラメータに対する理解の深さが問われる。だが、「Sパラメータを十分に理解するのは難しい」という声も多い。こうした難解なSパラメータの基礎から具体的な使い方まで、日経BP社が開催する技術者塾で解説するのが広島大学 准教授の天川修平氏である(2015年6月30日開催、詳細はこちら)。天川氏に高周波回路設計におけるSパラメータの重要性や理解を深めるための鍵を聞いた。(聞き手は日経BP社 電子・機械局 教育事業部)
――Sパラメータに関する高度な知識と深い理解は、今後ますます必要とされるようになるのでしょうか。
天川氏 高周波回路の特性が設計通りにならないのはよくあることです。対策としては過剰設計、つまりシミュレーション上はオーバースペックとなるように設計しておけばなんとかなっていました。ところが、近年は利用する周波数はどんどん高くなっているにもかかわらず、トランジスタの性能向上のペースは鈍化しつつあります。また、周波数が高くなって配線や受動素子の損失も大きくなっています。
結果として、過剰設計をする余地がだんだん小さくなってきているのです。以前なら無視できていたような小さな誤差要因でも、積み上がると過剰設計で対応できないレベルに達してしまいます。
こうなると試料設計、測定操作、ディエンベディング、モデリングなど、いずれもないがしろにできず、少しずつでも精度向上に努めるしかありません。軽量化が重要な航空機や自動車は厳格な重量管理をしながら設計をしていると聞きますが、たぶんこれに近い意識が必要です。
我々は主として100 GHzを超える周波数を相手に研究をしているので測定・評価技術の重要性をとりわけ切実に感じる立場にあると思いますが、製品開発においても傾向は同じはずです。
――超高周波オンウエハー測定のための試料設計やデータ処理には、Sパラメータに関する高度な知識と深い理解が要求されるそうですね。
天川氏 オンウエハーSパラメータ測定時、被測定物はプロービング用のパッドや配線に埋め込まれて(つまりエンベッドされて)います。生の測定データから所望のデバイス特性だけを計算で取り出す操作をディエンベディングといいます。ディエンベディングにはいろいろなやり方がありますが、どんな場合にもうまくいく万能な方法はありません。例えば、伝送線路をディエンベッドするのとトランジスタをディエンベッドするのとでは、違う考え方が必要です。測定試料の設計に際しては、どのような方法で被測定物をディエンベッドするか、また使う式の意味や導出の仮定を理解しながらレイアウトを考えなければなりません。だから理解の深さが物を言います。