2015年3月24日に発生した、ドイツのLCC(Low Cost Carrier)、Germanwings(ジャーマンウイングス)社の「A320」(欧州Airbus社製)旅客機墜落事故は、あらためて安全性確保に当たって人と機械との関係をどのように考えていくかについての課題を突きつけることとなった。航空機の安全性設計においては「人間が安全を保証する」と「機械が保証する」という2つの路線があり、Airbus社の一連の旅客機は「機械が可能な限り安全を保証する」という設計思想で作られている。今回の事故により、「パイロットが意図的に機体を危険にさらした場合には、既存の安全性確認の仕組みは無力となる」という事実が明らかになった。

欧州Airbus社の旅客機「A320」の一例
写真は、Germanwings社の2015年3月24日の事故とは無関係の機体。写真:Airbus社
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 今後旅客機は、「パイロットの悪意ないし害意による事故をいかにして防ぐか」までを考慮した安全設計が必要になるだろう。

人間はどこまで信用できるのか、あるいは信用できないのか

 3月24日午前10時1分(現地時間)、Germanwings9425便のA320は、乗客144人と乗務員6人を乗せて、スペイン・カタルーニャ州のバルセロナ-エル・プラット空港を離陸した。目的地はドイツのデュッセルドルフ国際空港だった。午前10時30分ごろ、フランスとイタリアの国境付近を飛行中に同機は急速な降下を開始し、10時40分過ぎにレーダーから消失。機体はフランス側のバルスロネットという街の近郊、標高2000m付近の山岳地帯に墜落したことが確認された。生存者はいなかった。

 事故発生当初、すぐに問題になったのは「A320のヒューマン・マシン・インタフェース(HMI)が何か墜落に関係しているのではないか」ということだった。現在、世界の旅客機の大部分は米Boeing社とAirbus社が供給しているが、両者は航空機の安全に対する基本姿勢が大きく異なる。Boeing社は、「最後の安全を保つのは人間(パイロット)である」という考え方に立ってる。現代の旅客機は様々な自動飛行システムを組み込んであるが、それらはパイロットが正しく判断し、正しく行動するためのものであり、最後の決定権はパイロットにある。

 一方、Airbus社は「人間は間違える生き物である」という前提に立っている。可能な限り自動化して安全を保ち、パイロットが犯すであろうミスをもカバーするように設計する。Boeing社の思想は、航空機操縦の全てを人が判断していた時代から積み上げられたものであり、Airbus社の立場はセンサーとコンピューターによる自動制御の存在を前提としたものだ。思想としてはAirbus社の方が新しい。