「政策や規制と向き合う半導体事業」と題し、半導体メーカーが戦略を考える上で見逃せない要素になった政策や規制とどのように付き合っていったらよいのか、指針を抽出することを目的としたSCR大喜利。今回の回答者は、服部コンサルティング インターナショナルの服部毅氏である。

服部毅(はっとり たけし)
服部コンサルティング インターナショナル 代表
服部毅(はっとり たけし) 大手電機メーカーに30年余り勤務し、半導体部門で基礎研究、デバイス・プロセス開発から量産ラインの歩留まり向上まで広範な業務を担当。この間、本社経営/研究企画業務、米国スタンフォード大学集積回路研究所客員研究員等も経験。2007年に技術・経営コンサルタント、国際技術ジャーナリストとして独立し現在に至る。The Electrochemical Society (ECS)フェロー・理事。半導体専門誌にグローバルな見地から半導体業界展望コラムを8年間にわたり連載。近著に「半導体MEMSのための超臨界流体(コロナ社)」「メガトレンド半導体2014ー2023(日経BP社)」がある(共に共著)。
【質問1】半導体業界が参考にすべき、政策や規制を利用した市場の創出と成長に成功している業界はどこでしょうか?
【回答】参考にすべき業界は無い。自助努力せず政策や規制にすがりつくと成功しない
【質問2】政策や規制を利用して新市場を創出し、折り合いをつけながら成長させるために半導体業界がすべきことは何でしょうか?
【回答】省エネルギー半導体デバイス、それを利用した装置およびトータルシステムの開発と実用化
【質問3】現在の半導体メーカーの中で、政策や規制を利用した事業で成功する可能性が最も高いと思われるのはどこでしょうか?
【回答】国内では、民生から産業インフラへ軸足を移した三菱・日立・東芝など。海外では、既存の政策や規制をすりぬけて次々と新規分野への参入を続けるGoogle社

【質問1の回答】参考にすべき業界は無い。自助努力せず政策や規制にすがりつくと成功しない

 第2次世界大戦後の混乱期ならいざ知らず、経済成長は、基本的には民間企業と市場競争によって実現すべきである。政府の役割は規制緩和であり、産業が育ちやすい環境を整備することである。補助金・助成金のような従来型保護政策からの脱却なくして、グローバルな競争下では生き残れない。

 一橋大学の竹内弘高教授らは、1990年代に日本が競争力を持っていた20の産業(自動車、カメラ、カーオーディオ、炭素繊維、連続合成繊維織物、ファクシミリ、フォークリフト、家庭用エアコン、家庭用オーディオ、マイクロ波および衛星通信機器、楽器、産業用ロボット、半導体、ミシン、醤油、トラック・バス用タイヤ、トラック、タイプライター、VTR、テレビゲーム)と、持っていなかった6つの産業(民間航空機、証券業、ソフトウェア、洗剤、アパレル、チョコレート)を比較し、前者の成功産業では政府の役割はまったくといってよいほど存在しなかったのに対して、後者の失敗産業では政府の広範な介入があったことを明らかにしている1)

 政府には、成長産業を先見性を持って選ぶ能力などあるとは思えない。政府が成長産業に気付く前に、命懸けの民間企業はとっくに気付いて先行投資している。政府の政策や補助金を待ち、規制がかかるのを待っているようではグローバルな市場で海外のライバルに追いつけない。高橋洋一氏、野口悠紀雄氏をはじめ、同様な見解を示す経済学者は少なくない。

 欧州で固定価格買取制度をあてにしていた太陽光パネルメーカーが制度の打ち切りによって破綻に追い込まれた例は、まさに政府の政策や規制に依存し過ぎると大やけどをする典型例である。日本でも政策と規制に守られてきた原子力産業や農業は、ご覧の通りの状況だ。政策と規制に縛られた日本の製薬業界も、苦戦を強いられている。発展を続ける世界規模のメガファーマーのように、もはや国家単位ではなく世界に向けてボーダーレスに展開できなければ成功はおぼつかなくなって来たからだ。

■参考文献
1)竹内弘高:「日本型政府モデルの有効性」、貝塚啓明編『再訪日本型経済システム』、有斐閣、2002年