先進運転支援システム(ADAS)や自動運転車、医療や農業、建設、エネルギーに革新をもたらすIoT関連機器。今後市場の成長が期待される半導体を応用した機器やシステムは、市場が生まれ成長する原理が、これまでとは大きく異なるように見える。

 メインフレームやワークステーションが半導体市場をけん引していた時代。半導体の技術開発や設備投資は、こうしたコンピューターを利用する企業の投資サイクルに合わせて進められていた。そして、今では死語となった、シリコン・サイクルを生み出す要因になった。1990年代半ば以降のパソコンや家庭用ゲーム機、デジタル家電、スマートフォンが半導体市場を作ってきた20年間。一般消費者の望みと欲望に応える企業を支える半導体を提供することが、半導体メーカーの浮沈を決めてきた。

 これに対し、現在成長が期待されている半導体の応用市場はどうだろうか。政府や業界団体が決めた政策や規制が、市場を生み、成長させる動機付けをしているものが多いように思える。いわゆる市場原理ではなく、明確な意図が市場の行方を大きく左右するように見える。かつて、半導体の応用市場の軸足が、企業向けから民生向けへと移った時、半導体業界の構造と企業の勝ちパターンが大きく変化した。今回の変化でも、新しい勝ち組、新しいビジネスモデル、新しい技術と製品のあり方が生まれる可能性があるように感じる。

 政策や規制は、産業の生殺与奪を左右する劇薬である。ドイツやスペインが実施した電力の固定価格買取制度(フィードインタリフ)によって急成長した太陽電池パネルメーカーが、制度の廃止を境に跡形もなく消滅した。政策や規制をどう利用し、どのように付き合っていくのかは、半導体業界が事業戦略を考える上で欠かせない要因になるだろう。

 今回のSCR大喜利では、「政策や規制と向き合う半導体事業」と題し、半導体メーカーが戦略を考える上で見逃せない要素になった政策や規制とどのように付き合っていったらよいのか、指針を抽出することを目的とした。今回の回答者は、IHSテクノロジーの南川明氏である。

南川 明(みなみかわ あきら)
IHSテクノロジー 日本調査部ディレクター
南川 明(みなみかわ あきら)
 1982年からモトローラ/HongKong Motorola Marketing specialistに勤務後、1990年ガートナー ジャパン データクエストに移籍、半導体産業分析部のシニアアナリストとして活躍。その後、IDC Japan、WestLB証券会社、クレディーリヨネ証券会社にて、一貫して半導体産業や電子産業の分析に従事してきた。2004年には独立調査会社のデータガレージを設立、2006年に米iSuppli社と合併、2010年のIHSグローバル社との合併に伴って現職。JEITAでは10年以上に渡り,世界の電子機器と半導体中長期展望委員会の中心アナリストとして従事する。定期的に台湾主催の半導体シンポジウムで講演を行うなど、アジアでの調査・コンサルティングを強化してきた。

【質問1】半導体業界が参考にすべき、政策や規制を利用した市場の創出と成長に成功している業界はどこでしょうか?
【回答】自動車産業の排ガス規制

【質問2】政策や規制を利用して新市場を創出し、折り合いをつけながら成長させるために半導体業界がすべきことは何でしょうか?
【回答】新市場立ち上げを効率的に行うルール作り

【質問3】現在の半導体メーカーの中で、政策や規制を利用した事業で成功する可能性が最も高いと思われるのはどこでしょうか?
【回答】米国メーカー

【質問1の回答】自動車産業の排ガス規制

 排ガス規制は各国で環境破壊を食い止めるために決めたルールに従い、自動車メーカーが技術開発を加速してCO2削減を実現した。この20年間の車の進化は劇的なものがある。