水車を回した川を探せ

 アイザック・ニュートン(Isaac Newton、ユリウス暦1642~1727年)の墓の話をする前に、まず生家の話をしよう。なぜならそこは、ニュートンが万有引力の法則、運動の法則、微積分法という三つの大理論をわずか1年半の間に発見した「創発」の現場だったのだから。

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創発と恋心に導かれ、ぼくは物理学者の墓を巡る

 ニュートンの生家に行くことは、ぼくの子どもの頃からの夢だった。イギリスを訪れたらまず何を置いても行こうと思い定めていた。でもぼくがそこでどうしても確かめたかったのは、書斎でも実験室でもなく、1本の川だった。

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Woolsthorpe-by-Colsterworthにあるニュートンの生家。Woolsthorpe Manorという名で350年前のまま保存されている。
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 小学2年生のとき、叔母から初めてもらった本がニュートンの伝記である。ぼくは何百回も繰り返し読んで、一字一句を完全に覚えてしまった。

 中でも記憶に焼き付いていたのは、幼きニュートンが自分でこしらえた水車を近所の小川で回す場面だった。伝記では「ウールズソープに生まれ、お母さんに置き去りにされたニュートン。からだが小さく、いじめられっ子だったニュートンは水車で一人遊びをするのが好きだった。ある日、その水車をいじめっ子たちが粉々に壊した。ニュートンはそのいじめっ子とけんかして勝つ。それをきっかけに彼は強くなった」などと書いてあった。

 滔々(とうとう)と流れる川の流れを受けて水車を回すニュートン。いったいそれはどんな所なのか。幼な心にぼくは「いつかニュートンの生まれ故郷に行ったら、その川を探そう」と考えていた。