記者をしているとしばしば近未来予測を求められます。個々の記事ではもちろん、記事以外でも数年先、時には15年先の将来について取材の経験を基にした意見を聞かれるのです。そうした時、気を付けているのは、安易にリニアな予測をしない、あるいはリニアな予測は疑ってかかることです。

 リニアな予測とは、N年先がどうなっているかは、N年前の状況と現在の状況の差分を基に、その勢いをN年先に外挿する、という手法です。個々の要素技術の開発状況やそれらの律速要件あるいは加速要件はもちろん考慮して、リニアな予測の微調整に使います。あくまで微調整なのです。

 こうしたリニアな予測は、記者として最も怠惰な予測とも言えます。以前がこうだったから、未来もこうなる、というのは、ある意味誰でも言えること。頭を全然使っていません。

 一方で、実際の技術開発や技術の実用化への動きには、リニアでない変化がしばしば起こります。数十年間リニアにしか改善しなかった技術が、突然、指数関数的な性能向上を始めたり、製品が爆発的に普及したりする例が少なからずあるのです。そうした大きな変曲点を迎えた技術で、無造作にリニアな予測をしてしまうと途方もない“誤測”につながりかねません。

 太陽電池がよい例です。太陽電池は1950年代に開発が始まり、2000年代前半まで、累積導入量は日本および世界でほぼリニアに増えている状況でした。ところが、2000年代半ばにドイツなどで太陽電池の爆発的な普及が始まり、今は日本にも波及してきました。日本では2008年ころまで、国内の年間導入量はほぼ横ばいでしたが、その後、年間導入量が大幅に増えました。

 ちなみに、2008年までの太陽電池の国内累積導入量は約2GW。それが2014年末時点には、稼働しているものだけで約20GWに達したもようです。過去何十年分の導入量が、今はおよそ3カ月分の導入量に等しい状況です。

 太陽電池の導入が爆発的に進んだ(進み過ぎた?)ことについての議論は当然あるでしょう。ただ、ここでお伝えしたいのは、多くのリニアな予測が破綻したことです。つい3~4年前まで、弊誌(日経エレクトロニクス)以外の多くの国内導入量予測はリニアな予測でした。約10年前には既にドイツを初めとして世界中で太陽電池の導入が急激に増え始めたことが知られていたのに、国内では頑固なまでにリニアな予測をしていた例が多かったのです。つまり、爆発的な増加を予測できませんでした。

 手前味噌になってしまいますが、弊誌は2006年3月13日号の特集「太陽電池が地球を覆う」で、太陽電池が大きな変曲点を迎えていることをいち早く指摘しています。2010年2月8日号の特集は「増殖寸前、太陽電池」。当時は、国内ではかなり浮いた記事だったかもしれません。

 筆者の記者歴は約17年ですが、世の中にあふれているリニアな予測に違和感を感じ続けてきた17年でした。太陽電池はその1つに過ぎません。