福生氏が経営するスープカレー専門店「GARAKU」(写真:雅楽)
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福生 「これまで助けてもらった人たちに感謝を伝えなければ」というのは、別に仏キャラの設定というわけではなく(笑)、本当にそう感じているんですよ。言葉だけでなく、行動で伝えていかなければって。

 日本最北端の稚内という街があります。そこで、GARAKUで修行したスタッフがお店を出していますし、縁があって沖縄にも店を出しています。先日は東京の八王子にも出店しました。八王子は、東京の中ではローカルな部分もあるじゃないですか。北から南まで店を出す中で、ローカルの街のよさであったりとか、そこで人と出合うことの楽しさということをすごく再認識しています。自分の近くにいる人たちを大切にしなければと。

三反田 先ほど、独立は自然なことだったと言ってましたけど、とはいえ大変だったでしょう?

福生 独立したとき、2人目の子供が妻のお腹の中にいたんです。その子も今は8歳になりましたけど、その状況で借金を背負って開業したので、すごいプレッシャーはありましたよ。

 最初は、妻とアルバイトと私の3人でスタートしました。オープンしたてのときには、仲間が知り合いを連れて食べにきてくれて、一気に満席になったんです。それでスープが切れることがあったんですけど、「あそこはなかなか食べられない店だ」と口コミが広がって。その評判もプレッシャーになりました。そうこうしている間に、今はアルバイトを合わせて60人くらいが働いているという感じです。

三反田 めちゃめちゃ、はやってますよね。オープンと同時に並んでますもん。

リアル 独立したときは、味には自信があったんですか。

福生 自分で独立して店を持つということは、経営者になるということです。だから、「自分がおいしいと思う味」と「お客さんに支持される味」のバランスを意識していました。

 オーナシェフが失敗するパターンは、「自分が作りたいものを作ってしまう」ということです。それがたまたまお客さんの嗜好に合っていればいいですけど、そうでなければお客さんは離れていってしまいます。クリエイティブな職種には多いパターンかもしれませんね。

GARAKUのスープカレー「やわらかチキンレッグと野菜」(左)と「とろーり3種チーズと手ごねハンバーグ」(右)(写真:雅楽)
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 でも、味について実際に声を掛けてくれるお客さんって、ほんのわずかなんですよ。だから、いつもお客さんが食べている様子を観察しています。ひと口目のリアクションや、食べた後にうなずいているとか、そういう声なき声を吸い上げながら味を修正していきます。もちろん、急に味を変えると反動が大きいので微修正していくんですけれど。そういうことにずっと取り組んでいます。

光安 すごく、よく分かりますね。

三反田 焼酎や日本酒も変わっていくんですか。

光安 やはりちょっとずつ変わっていきますよ。酒造りは手作業なんで。もちろん、製造プロセスをシステム化すれば、間違いはありません。1年中、同じ味の商品ができるだろうけれど、それって同じシステムを買ってきたら、同じ味になるということですよね。例えば、三ちゃんが「僕、明日から焼酎を作ります」と。それでいいのかという話だと思います。変わっていくし、少しずつ変えていかなければならないですよね。