工業製品を作り出す技術として、これまで私たちは目に見え、感じることのできる自然現象を活用してきた。このような技術の活用が今後、大きく変わる可能性がある。特異な現象を製造現場に生かす試みが、現実味を増してきたからだ。その一例が、100兆分の1秒(フェムト秒)に、ピークパワー数兆Wという巨大なエネルギーを集中させることができる高強度極短パルスレーザーの活用である。高強度極短パルスレーザーは、現実離れしたさまざまな現象を引き起こす。ものづくりの技術としての活用は、全く手付かずの現象ばかりだ。こうした特異な現象を理解し、使いこなすことができれば、これまで実現できないと思われていた魔法のような処理や加工が可能になる。

写真●ICCPT プロジェクトリーダー、東京大学大学院理学系研究科附属フォトンサイエンス研究機構の湯本潤司教授

 文部科学省の革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)で取り組む課題の一つとして進められている「コヒーレントフォトン技術によるイノベーション拠点(ICCPT)」では、高強度極短パルスレーザーが引き起こす特異な現象を生かした、未来のものづくり手法の確立を目指している。その応用分野は、驚くほど広い。既に実用化に向けて着実に近づいている成果も数多く出ている。ここでは、開発している技術の一部を紹介する。