ユニークなスカニアに着目

『日経ビジネス』1998年1月5日号の記事
『日経ビジネス』1998年1月5日号の記事

 VWが買収したスカニアについては、私は1998年の『日経ビジネス』の特集記事で初めてその存在を知り、ずっと情報収集をしてきた。

 そして、2002年に出版された書籍『トヨタはなぜ強いのか』(日本経済新聞社)を手にした時、紙幅の1/4ほどを割いてスカニアのモジュール化が詳しく解説されていたので、非常に驚いた。もちろん、モジュール化の方法論は一切書かれていないが、モジュール化の本質や真髄について解説されており、私がこれまで研究してきたMDの思想的強化を図ることができ、今後の研究を進める上での羅針盤になった。例えば、以下のようなことが書かれていた。

・モジュール同士がぴったり合うような標準化が難問(言外に「スカニアは何らかの方法でそれを克服した」といっている)
・小さい自己完結型のモジュール(ロシアの民芸品「マトリョーシカ人形」のように入れ子構造でモジュール化)
・スカニアでは顧客要求に応じてトラックを個別設計しない(顧客要求を最大にカバーしたモジュラー部品を事前に準備)
・製品の多様化を絶対的に尊重(部品種類を削減するために製品多様化を犠牲にすることはしない)
・特注仕様もあるが、ツーリングだけは共通に(デザイン部品などはモジュール化できないが、部品製造工程の共通化はする)
・製品多様化と部品少数化の両立がスカニアの卓越した収益性の源泉

 以後、私はスカニアの情報収集に心掛け、幾つかの貴重な資料も入手した結果、次のようなことも分かった。

――スカニアは1891年に創業したが、その創業哲学は「広範囲の標準化によってクルマのコンポーネントの数を最少化する」だった。一般的な会社の経営理念は「顧客の満足のために…」のような“目的系”の標語だが、スカニアの創業哲学は目的を実現するための“手段系”である点がユニークである。

――スカニアは1930年代からモジュール化に取り組み、1950年代にいったんモジュール化の仕組みを構築したが、1960年代に品質問題に襲われて大量リコールを余儀なくされた。だが、創業理念からしてモジュール化を放棄するわけにはいかず、一方でモジュールの組み合わせは天文学的な数字になるので、その品質検証は難航を極めた。膨大な仮説検証の実験を経て、1970年にあらゆる品質問題が潜まないモジュール化を実現した。そしてVWは、スカニアの半世紀にわたるMD完成に向けた苦闘の結晶を瞬時に手に入れた。

――スカニアと2002年から2011年まで業務提携していた日野自動車の担当者によると、スカニアではモジュール部品の組み合わせだけで製品が出来上がるので、スカニアの設計者は生産技術も担当しているという。一般に設計者は顧客を向くのでモノを変えようとし、生産技術者は社内の生産設備を向くのでモノを変えようとしないので、その調整に多くの時間と工数を要する。近年、設計者と生産技術者を同じ部屋に入れてコミュニケーションの効率化を図る「大部屋方式」が流行っているが、スカニアは同一人物が両方を担当しているのでスムーズに全体最適点に着地でき、大部屋方式は不要である。