「昨今、実績を十分に積んだはずのエレクトロニクス系技術者が、なかなか再就職できない。中途採用に前向きな企業は多いのだが」。

 ある理工系大学の教授から、このような話を聞きました。例えば、半導体メーカーで実績を積んだ技術者でも、電気・電子系技術者の拡充を進めている自動車関連企業への転職がうまく進まないとのこと。

 なぜでしょう。そもそも中途採用の枠が少ない狭き門のため、ごく限られた技術者しか転職できないのでしょうか。新規分野の事業拡大のため中途採用を強化している企業関係者によれば、そうとは言い切れないそうです。人員拡充計画を立てているのに、なかなか希望する実力を備えた技術者を確保できておらず、当初計画していた事業拡大の絵が描けないといいます。

 技術者側は実績を生かしたいが受け入れてもらえない、企業側は技術者を受け入れたいが肝心の実力が足りない。なぜ、両者にギャップが生じるのか。その答えは、実績は実力とイコールではないことにあります。高い専門性に裏打ちされた実績が実力ではないとは、どういうことでしょうか。

 電気・電子系技術者育成協議会で理事長を務める加藤光治氏(元・デンソー専務取締役)によれば、こうしたギャップが生じる背景に、今後成長が期待される製品やサービスは様々な分野の融合から成ることがあるそうです。ロボットやドローン、ウエアラブル、IoT、自動運転車など、何かと“次世代”の文字が付くものは、電気・電子と機械、電気・電子と医療といった新たな形での組み合わせであり、従来のエレクトロニクス機器で成立している分業体制が必ずしも通用しません。個々の技術者は自らの専門領域を持ちながら、新たな機器やサービス全体をある程度俯瞰できるだけの、電子回路技術、半導体技術、制御技術、ソフトウエア技術などの素養が求められるといいます。

 ギャップの問題は転職する技術者が直面するだけでなく、社内で異分野融合の新規事業を立ち上げようとするエレクトロニクス企業内でも生じています。既存分野のように、しっかりとした分業体制が成立していた業界では、分業化された各部分において技術者は高い専門性が求められてきました。しかし、様々な分野が融合する新規事業は分業にまで至っておらず、従って技術者は特定の専門性が高いだけでは、その業界以外では生きていけなくなります。分業が進んだ構造の中で、「技術者の柔軟性が失われる」(前出の加藤氏)ことが、前述のギャップが生じる原因といえます。