倶楽部セッテンの第5回。今回も前回に引き続き、老舗企業の2人の経営者がゲストである。鹿児島福山町で黒酢の製造を200年続けてきた福山酢醸造の取締役 営業本部長を務める重久清隆氏と、愛知にある創業90年の飴屋、大丸本舗の代表取締役である宇佐美能基氏だ。
 両社ともに長い歴史を守りながら、新しいアイデアをビジネスに取り入れる柔軟性を持つ企業である。前回は、歴史が培った職人の技をいかに継承していくかについて語り合った。今回は、その基盤の上にいかに新しい地層を積み重ねていくかで大いに盛り上がった。
左から、三反田氏、重久氏、宇佐美氏(写真:加藤 康)
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三反田 健康嗜好が高まって、黒酢はブームになっていますよね。重久さんのところも、作るのが追い付かないんじゃないですか。

重久 大手のメーカーと取り引きがあって、カプセルに入れた黒酢が売れてバーンと売り上げが伸びた時期がありました。「倍々」どころではない勢いで伸びた。でも、手作りなので、売り上げはすごかったけれども生産量で対応できなかったんです。会社の売り上げの大半を占めていたんですが、来年にはウチの会社のキャパシティを超えるというときに生産をお断りさせていただきました。

 このまま続ければ、みんなの給料やボーナスも上げられるけれど、お断りしたいと職人さんたちに説明しました。味は関係なく、栄養成分が入っていればいいと言われるのも正直、違う気がしました。それは、大手の黒酢メーカーがやるべきことで、うちがやることではないと。

 そう話したら職人さんたちも、それはもうぜひ断ってくれと分かってくれました。給料は減るかもしれないし、何年掛かって取り戻せるか分からないとも言いました。「我々も生活はすごく大切で、そのために働いているけれど、歴史を残すためにやっていることだから。そのためなら一緒に腹を切りましょう」と言ってくれましてね。

三反田 へぇ。すごいですね。

重久 苦労は多いわけですが、職人さんたちは胸を張って自分の子供たちにウチの会社で働けと言ってくれているみたいです。それで子供たちも、お父さんの会社で働きたいと言ってくれるような会社になることが一番幸せなことですね。それは、結果的にお客さんに喜んでもらえる商品づくりにもつながると思うんです。

宇佐美 少し違いますが、弊社でも職人さんとのやり取りでこんなことがありました。仕込飴(一般的に言われる「金太郎飴」)ってありますよね。