倶楽部セッテンの第4回。今回のゲストは、老舗企業の2人である。1人は、鹿児島県福山町で黒酢の製造を200年続けてきた福山酢醸造の取締役 営業本部長を務める重久清隆氏。もう1人は、愛知にある創業90年の飴屋、大丸本舗の代表取締役である宇佐美能基氏だ。
 両社ともに長い歴史を守りながら、新しいアイデアをビジネスに取り入れる柔軟性を持つ企業である。分野は異なるものの、歴史が培った職人の技を大切にし、不易流行を具現化していく取り組みに共通点がある。家業を継ぎ、かつ先人を乗り越えていくことはそう簡単ではない。老舗企業の2人の経営者は、なぜ新しいことに挑戦できるのか。
左から、三反田氏、重久氏、宇佐美氏(写真:加藤 康)
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三反田 実は、お二人が顔を合わせるのは、今日が始めてなんです。

リアル開発会議 そうなんですってね。先日、三反田さんは、「2人を引き合わせたらむちゃくちゃ面白いはず」って言ってましたよ。

重久 この取材の前に少し話をしただけで、既に夢が広がっています(笑)。

三反田 まずは、自己紹介的なものをお願いできますか。

重久 重久家はもともと霧島神宮の神領の租税徴収に関わっていた家系で、200年ほど前から黒酢の製造を始めました。鹿児島は暑いので食べ物が傷みやすい。それを防ぐ調味料として生まれたと聞いています。当初は松兵衛酢と呼ばれていたそうです。

三反田 マツベエ酢?

重久 そうです。松兵衛さんが作ったので。鹿児島弁だと「マッベエ酢」です。製法の特徴は一つの甕壷で発酵から熟成までを行うというもので、これは世界的にも珍しい。製造所には甕が1万3000本ほど並んでいますが、一つひとつすべて異なる酢が出来上がります。

三反田 味が違うんですか。

福山酢醸造の「純玄米黒酢 薩摩 黒壽(こくじゅ)」(700ml、写真:福山酢醸造)

重久 ええ。味も色も成分もすべて違います。ある程度均一化するために出荷の際にはブレンドするんですが、今年のお酢は酸っぱいねとか、ちょっと色が濃いねということはあります。

 「いい黒酢とは何か」という定義はないんですよ。私たちが思っているのは、「ウソのない黒酢がいい黒酢なのだろう」と。少し色が違っていたり、酸っぱかったり、まろやかだったり、そういう甕ごとの癖を含めて黒酢なんです。最近は健康食品として注目を集めるようになって、お客さんの理解も高まっているので、ようやく信用してくれる時代になったという感じですね。

三反田 この10年くらいということですか。

重久 そうですね。200年続けてやっとです。でも、長いように思いますけれど、黒酢は1年に2回、春と秋に仕込みをするだけ。だから、所詮は400回くらいしか作っていない。出来上がるのも、1~2年後です。

三反田 すごい商売ですね。