電子の電荷と磁気モーメント(スピン)を利用する新しいエレクトロニクス技術であるスピントロニクス。HDDの磁気ディスクヘッドに使われるだけでなく、昨今は磁気抵抗メモリ(MRAM)に代表されるように半導体技術と磁気技術を融合したいわゆる半導体スピントロニクスへの注目度が高まっている。半導体技術と磁気技術をLSI上で融合することによって、電子機器の主記憶や論理LSIを不揮発にする技術開発が進み、従来ない電子機器を生み出す可能性が高い。さらには耐環境性や高信頼性から、スピントロニクスの可能性を高く評価する声もある。

 今後の成長株になるスピントロニクスは日本が研究開発で先行するとされる。果たして、日本はどの程度優位な立場にあるのだろうか。そして、どの企業や研究機関が先行し、開発フェーズがどの程度実用化に近づき、そしてどのような用途が検討されているのか…。特許庁は「平成25年度特許出願技術動向調査」において、国内外で出願されたスピントロニクス関連の特許を調査し、スピントロニクスの開発状況をあぶり出した。本稿では同調査の要点を紹介する(特許庁による調査レポートの概要(PDF形式)はこちら)。

 近時、電子の電荷とスピンの両方を利用する新しいエレクトロニクスである「スピントロニクス」に世間の注目が集まっています。スピントロニクスデバイスの代表的製品として、スピンに依存する電気伝導現象を利用した磁気ディスクヘッドや磁気抵抗メモリ(MRAM: Magnetoresistive Random Access Memory)が開発されています。特にMRAMは、高速かつ書き換え可能な次世代不揮発性メモリとしてDRAMからの置き換え需要が期待されています。MRAMは、その耐環境性や高信頼性などの特性を活かし、航空・宇宙産業、自動車産業、医療・バイオ産業向け製品開発を行うことによって、利益率の高い事業展開も期待されています。

 本調査では、スピントロニクスを用いたデバイスの特許出願動向や技術動向と、その応用分野の出願動向を調査しました(図1)。

図1 技術俯瞰図
[画像のクリックで拡大表示]