世界のPC(パーソナルコンピューター、海外では「パソコン」という言葉は通じません)の多くが台湾、もしくは台湾系のメーカーで生産されるようになってから20年以上がたちますが、現在でも台湾メーカーのシェアは90%を超えているものと推定されます。それほどまでに、PC産業における台湾メーカーの技術力、コスト競争力は定評があるといえるでしょう。

 少し前の話ですが、米国のIBM社からPC事業を譲り受けた中国のLenovo社が、自社工場では目標価格で作れなかったために、台湾のPCメーカーに生産を委託しました。すると、その台湾メーカーは、自社の中国工場で生産することで、目標価格をクリアしたというのです。なんとも笑えない話ではありますが、このような話がもっともらしく聞こえるのも、厳然とした実績があるからでしょう。

 PCは極めて裾野の広い産業です。設計やソフトから始まって、CPUやメモリーなどの半導体、受動部品、プリント基板、機構部品、変換部品、電源部品、ディスプレイ、キーボード、ケーブル類などの各種部品の他に、ハウジングの成形、プリント基板への部品実装、組み立て、検査など、実に様々なプロセスが関わってきます。また、そこで使われる金属材料、プラスチック材料、無機材料、複合材料は極めて多種多様です。

 かつての台湾は、これらの部品材料、モジュール類を日本や欧米から輸入し、ハウジングと組み立ての下請けを生業としていました。しかし、世界のPC市場が拡大するにつれて、台湾国内のメーカーも成長し、現在ではほとんどの部材を国内で製造供給できるようになっています。また、安い人件費を求めて、製造工場を中国はもとより、ベトナム、タイ、インドネシアと東南アジアに広く展開しています。

 このように、台湾は世界で消費されるPCの生産基地として、必要不可欠な存在になっています。一方で台湾にとっても、PC産業は多くのビジネスと雇用を生み出す基幹産業となっており、今やなくてはならない重要な産業になっています。

 ただし、台湾のPCメーカーが自社ブランドで世界市場に製品を出しているのはほんの一部で、大部分は海外ブランドメーカーからの委託生産で占められているのが実情です。言いかえれば、台湾のPCメーカーは、自分たちの営業努力では、如何ともできない部分が大きいのです。それだけに、台湾のPC関連メーカーは、世界の市場動向とブランドメーカーの動きに非常に敏感であると同時に、サプライチェーンの中における自社の位置付けをしっかりと理解しようとしています。精度の高い需要予測を得て、そのデータに基づいたバランスの良い設備投資と要員の確保を行うためです。